私は1年分のスケジュール表とは別に、「4カ月の予定一覧表」を肌身離さず持っている。ここには、向こう4カ月の私のスケジュールが載っており、随時、新たな予定が加わっていく。それをこまめにチェックしながら「一番重要な仕事は何か、いまどうなっているのか……」を常に意識している。すると、ふとしたときにいいアイデアが浮かぶこともたびたびある。以前は3カ月分のものを使っていたが、訪問先でのスケジュール調整などで、すぐに予定が埋まってしまうので、どうしてもこのスパンになる。
一方の「即決」に関して、私は30年ほど前、得がたい経験をしている。当時、大手電機メーカーにテレビのハウジング(外装)の材料を納めていた。あるとき、その原料配合に一部ミスが生じたことが日曜日の夜に判明した。
その製品はアメリカ向けであり、テレビが積まれる貨物船の倉庫内温度は、航海中に上昇する。だが、変形が起きるかどうかに関しては、大丈夫だろうという見方もあった。変形するかどうか、まず検証すべきという意見もあったが、係長だった私は、上司である課長とともに月曜日の朝一番で先方の工場に出向いた。そこで「配合ミスが見つかり、場合によっては大きなトラブルになることも予想される」と伝えたのである。
クライアント側の幹部は、直ちに出港を見合わせ、ハウジングの交換を決断してくれた。当社からも10人ほどが応援に駆け付け、私も慣れないドライバーを片手に付け替え作業に奮闘したのを昨日のことのように思い出す。
一件落着のあと、電機メーカーの幹部の「よくすぐに話してくれた。もし連絡が遅れていたら、わが社のブランドが世界中で傷ついてしまったかもしれない」と逆に褒めていただいたことが強く心に残った。苦しいことから逃げて問題を先送りにしてはいけないということをつくづく感じた。
私は折に触れ、若い社員たちに「人生や仕事で壁にぶつかったとき、『正しいと思うけど苦しい道』と『楽だけど何となく後ろめたい道』があったら、必ず自分にとって厳しいほうを選べ」と語っている。苦しい道を進むにはおそらく時間もかかり、辛いかもしれないが、それを乗り越えることで人間的にも成長し、時間の感覚も磨かれるに違いない。