毎日、ぐっすり眠れているだろうか?眠りの質は、ビジネスにも影響を及ぼす。そこで、第一線の経営者はいかに眠りを管理しているのか、シリーズで紹介する。第1回はカフェ・カンパニーの社長、楠本修二郎氏に話を聞いた。

渋谷のキャットストリートの活性化や復興まっ只中の南三陸の商店街デザイン……。カフェを起点としたコミュニケーションの仕掛けを考えるのが、楠本氏の仕事だ。全国各地を飛び回る多忙な日々だが、「午前0時頃に床について、翌朝6時に目覚めるリズムが定着しています」と話すとおり、睡眠サイクルは規則正しい。「だから、いったん眠りのリズムが崩れると、調整が大変。海外に行った後は時差で眠りが乱れてしまい、いいアイデアも浮かびにくいですね」と言う。

そんな楠本氏も、サラリーマン時代は仕事に追われ数時間しか眠れないという日が多かった。「20代のうちは、寝不足でも不思議と目覚めは良かったんです。24時間、体のスイッチが『オン』になっていたんでしょう」と振り返る。「バリバリ仕事をこなすなら、そんなスタイルもありだと思います。でも、新しいものを生み出す気持ちの余裕はありませんでした」。

眠りの重要性を再確認したのは、カフェ経営の世界に身を置くようになってからだ。「無秩序に積み重ねられた情報が、ふとした瞬間に店づくりのアイデアとしてつながっていく。これが、ビジネスで一番面白い瞬間です。さまざまな人に出会い、場所を巡るたびに、アイデアの種が増えていきます」。

しかし単に情報が増え続けるだけでは、いずれオーバーフローを起こしてしまう。そこで眠りが重要になる。楠本氏は「眠りによって余分な情報を“消去”しているんです」と自己分析する。

楠本修二郎●くすもと・しゅうじろう
カフェ・カンパニー 株式会社 代表取締役社長
1964年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。ディベロッパー勤務などを経て、2001年にコミュニティ・アンド・ストアーズ(現カフェ・カンパニー)を設立。「WIRED CAFE」をはじめとした飲食店・物販店の経営、設計・企画プロデュースを手がける。

「睡眠中に情報をふるいにかけ、不要な情報は忘れてしまうんでしょうね。そうすると頭の中がクリアになり、自由な発想を楽しむだけの余裕が出てくる。良質な眠りは、クリエイティブに不可欠なゆとりを生んでくれるんです」

それでは、良質な眠りを得るにはどんな準備が必要なのだろうか。

「寝る前の2、3時間は仕事のことは忘れ、家族とリラックスした時間を楽しんでいます。オン・オフをきっちり切り替えるのではなく、フル回転していたエンジンの速度が次第に下がっていくイメージでしょうか。時間の流れに身を任せるのが、快適な眠りを招くコツだと思います」

すっきりと目覚めた朝は、運動も心地よい。楠本氏は朝のランニングを楽しみながら、新たなビジネスのイメージを膨らませているという。

「情報はひらめきの源ですが、そればかり詰め込んでいると窮屈です。情報のかけらをアイデアにつなげていくには、さまざまな発想を楽しめるだけのゆとり、いわば余白のスペースが必要ではないでしょうか。健やかな眠りも、そんな余裕をもたらしてくれる大切な要素だと実感しています」