「資産」を「経費」にする
効果で、経営を効率化

クラウドとして提供される企業向けサービスは、アプリケーションなどのソフトウェアをインターネット経由で利用する「SaaS」、システムの構築や稼働のために必要なハードウェアやネットワークなどの基盤(インフラ)そのものを利用する「IaaS」、アプリケーションを実行するOSなどのプラットフォーム機能をサービスとして利用する「PaaS」、端末のデスクトップ環境をネットワーク越しに利用する「DaaS」などいくつかのタイプに分類されます(下図参照)。

では、企業がこうしたクラウドサービスを活用することは、経営にどういう意味を持つのでしょうか。一つは、アウトソーシングを推進できることです。自社でサーバーやシステムを所有して管理するよりも、それらを専門のサービス事業者にアウトソーシングすることによって「資産」を減らし「経費」に変えられます。

例えば、経営の優劣を決める指標の一つにROA(Return On Assets)があります。これは資産に対して利益がどれだけ出たかが分かる指標で、同じ利益なら、資産は小さく身軽なほうが優秀な会社となります。したがって、経営上の指標としては、自社でサーバーや高機能なコンピューターを購入して資産を膨らますよりも、それらをサービスの利用という形で経費にするほうが、資産が圧縮できて経営効率がよくなるわけです。

加えて、特にコンピューターの場合は「陳腐化が激しい」という問題があります。コンピューターの性能は18カ月で約2倍進むといわれていますから、単純計算で3年経つと4倍、6年で16倍も性能のレベルが向上します。逆に言えば、何億円もかけて自社でシステムをつくったところで、3年経ったら同じ性能のものが4分の1のコストで買えてしまいます。償却期間が5年あっても、実際は5年使い続ける前にどんどん資産価値が落ち、簿価とのギャップが生じます。つまり「所有することが不利」となるのです。

コスト削減に加え
経営リスクの軽減にも寄与

クラウドサービスの次なるメリットは、安く速く導入でき、コストの削減につながることです。

例えば、自社でサーバーを運用する場合、ピーク時を考慮した容量になっているので、通常時のサーバー稼働率は15~20%程度です。つまり8割近くの領域は使われずに空いています。これは見方によってはもったいない。しかし、クラウドサービスでは、仮想化という技術によって一つのサーバーに複数の機能を共有させ、サーバーの稼働を効率化してコストを低減することができます。さらにクラウドサービスは月極めのレンタル契約ですから、初期導入コストを抑えられるだけでなく、自社でなら半年がかりでつくっていた規模のシステムも1週間~数週間でスピーディーに導入することができます。また、万が一失敗した場合でもすぐにストップできますから、リスクも最小限に抑えられます。これが半年がかりでつくったシステムなら、簡単には止められません。

セキュリティーやBCP(事業継続計画)といった経営上のリスクも、クラウドサービスを利用することで軽減できます。サイバー攻撃が頻発するような時代において、自社でシステムのセキュリティーを守るには、大変な努力とコストが必要です。また、耐震性の高い施設を建設し、バックアップ機能のために複数のデータセンターを運用するといった投資を行うのも容易ではありません。集中したセキュリティー対策や施設の耐震化、地域連携などのBCP対策をとっているクラウドサービスの事業者を選択して利用するほうが相対的に安心度は高く、より効率的といえます。

クラウドサービスは、いまメニューも広がってきています。自社が抱える問題を解決するサービスを吟味しつつ、賢く活用されるとよいでしょう。