彼らの2年間にわたるフィットハイブリッドとの格闘は、こうした大きな落胆から始まったのだった。

第5技術開発室でハイブリッド・システムの開発を行う上か遠野(とおの)義久が、このプロジェクトチームに加わったのはそれからすぐのことだ。

「もともとフィットのチームに入ることには、大きな覚悟が必要だと考えていました」と彼は話す。

「でも、自分の想像以上のこだわりを彼らはフィットに対して持っていました。インサイトのシステムを載せても、彼らの要望は全く達成できない。するとすべてをやり直さなければならず、とんでもないところにきてしまったと思いましたよ」

彼の最初の仕事は、十数名からなる開発チームのスタッフを連れて試乗会を行い、徹底して「フィットハイブリッドには何が求められているか」という原点を語り合うことだった。シビック、インサイト、プリウス、フィットの4車種をそれぞれ乗り比べては、根本的な議論を繰り広げる。消費者が小型車に望むのは軽快な乗り心地であること、感動はハイブリッドならではのモーターの動きにあること……。

上遠野は耳を塞ぎたくなるような思いだった。例えば小型車ならではの軽快さを表現するためには、それだけモーターを多く使わなければならない。だが走り出しの放電量を増やせば、システムのバランスはすぐに崩れてしまう。再構築にはいったいどれほどの時間と困難があるだろう――。しかし懸念を少しでも示すと、人見、永峰、太田、宍戸の各部門のリーダーたちは、その葛藤を百も承知で言うのである。

「それはホンダの都合だろう。お客には関係のないことだ」

人見は次のように当時を振り返る。

「ハイブリッド・システムの担当者から見れば、インサイトのシステムを使う形が最も簡単に見えることはわかります。データは豊富にあるし、テストも簡略化できる。でも、それではフィットの形をしたインサイトになってしまう。フィットハイブリッドを成功させるには、肝心のハイブリッド・システムをつくる彼らに『フィットとは何か』を知ってもらう必要があったんです」

かつて2代目フィットの開発をともにした4人は、全員が開発の方向性を強く共有していた。彼らは常に研究室の小部屋で机を並べ、それぞれの専門分野の枠を取り外した議論を密に行ってきたからだ。

「エンジン部門も設計部門も関係なく、自由にお互いの領域について語り合える雰囲気。それがとても大切でした」と太田は語る。