西日本の地方都市に暮らす竹田昭子さん(仮名・44歳)は、結婚8年目にファストフード店でパートを始めた。「家でじっとしているよりも、外に出て働きたかったんです」。

平日3、4日ほど日中に出勤し、4万~5万円程度の収入を得るようになった。末っ子が高校生になった2、3年前からは週5日、朝8時から午後4時まで勤務。これで月10万円を超える。パート生活もいつしか14年目。「職場にいる若い世代と話していたら、わが子の気持ちがわかるようになりました。最近、うちの子がアルバイトで入ってきたんですが、『お父さん、お母さんの大変さがわかったよ』って言ってました。うれしいですね」と竹田さんは目を細める。働く主婦として夫に求めるものは特にないが、「『生き生きしてるな』とか『楽しそうやな』なんて言われたいですね」と笑う。

こうやって見てくると、妻に働いてもらうなら感謝や慰労の言葉を。元手がいらない割に効果的だ。仕事ぶりを認め、褒めて、愚痴を聞く。言われる前に家事を手伝う。

人と仕事研究所『平成21年版パートタイマー白書』によれば、過半数の妻は「ねぎらいの言葉をかけられる」と、働きぶりを認めてもらえたと感じるらしい。逆に金額や勤務日数が少ない点は攻撃しないこと。特に小さな子供はパートの足かせとなる。時には有休を使って子供の面倒を見るなど、上手に妻を支援したい。

しかし、脱・専業主婦による戦力化も一線を越えると思わぬ事態も。メーカー勤務の島田義男さん(仮名・45歳)は結婚16年目。中学生の子供が2人いる。妻は子供が幼稚園に行っている間は、近所の花屋のパートで6万円弱を稼ぐようになった。当時、手取り20万円だった島田さんには、ありがたい収入だった。

数年前に転職して年収は970万円に増加。一方、妻は教員免許を生かし、教師の職を得た。「手取り30万円以上あるはずだが、詳細不明」と島田さん。昨年、子供の教育方針を巡って連日の夫婦ゲンカに。「『いちいち揉めるくらいなら子供連れて出ていくから』と言われたこともありますよ」。

そんなゴタゴタが収束したかに見えた3月のある日。島田さんが電話に出ると、不動産屋を名乗る男が「奥様いらっしゃいますか」。小声で話している妻を怪訝な顔で眺めていると、受話器を置いた妻がこう切り出した。「バレちゃったから言うけど、マンション買おうと思って。子供たちもついてくるって言うし」。資力とともに行動力まで身につけた妻に、島田さんは言葉を失った。

妻が仕事を持つと夫婦の力関係が変わる。そこに気づかずにこれまで通りの関係を続けているとギクシャクしてくる。妻の資力が高まれば、家計の戦力になるが、間違うと暴走してモンスター化する恐れもある。経済力は発言力、時には破壊力にもつながると心得るべきだ。

(早川智哉=撮影(手帳)、的野弘路=撮影(人物))
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