企業がやっと変わってきたのが2017年ころ

【海老原】その背景にある社会構造に、どれほどの人が気づいているのでしょうか。僕はその構造を解き明かして変えていきたい、構造に変化を引き起こした今の40代女性たちの気持ちを代弁したいという気持ちが非常に強いです。

雇用ジャーナリスト 海老原嗣生さん
写真=本人提供
雇用ジャーナリスト 海老原嗣生さん

【上野】女性の気持ちを発信する役割は、私たち女性が果たしてきました。ですから、海老原さんのような男性ジャーナリストの方には、女性向けにメッセージを発信するより、ぜひ企業と男性に向けて語っていただきたいですね。海老原さんの新刊を見ると、女性向けに書かれているように見えて、男性が読むとは思えません。彼らも変化しつつあるとおっしゃいますが、40代女子の苦難を見てきた私としては、企業はこれほど能力のある女性たちを使い捨ててきたと思わざるを得ません。

【海老原】そこは、同じ女性でも30代と40代の間に分断があるのではないかと思います。大企業の総合職正社員に占める女性割合を見ると、企業が本当に変わってきたのは2017年ごろからです。1989年には2~3%しか在職していなかった30代女性が、2022年では30代前半で34%、30代後半で32%にまで伸びてきているのです。

【図表1】企業の規模別の大卒正社員に占める女性比率
※「賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)の当該サンプル数をもとに海老原氏作成。『少子化 女“性”たちの言葉なき主張』より

確かにフロントランナーたちは、男性による妙な気づかいでキャリアの途中からおかしな方向へ行かされることも多々ありました。しかし、その下の30代女性からはさらに人数が増えたため、マミートラックで受け入れきれず、企業も女性を短時間勤務での復職時も元の仕事の部署で腕を磨かせたり、昇進させたりせざるを得なくなってきています。この傾向は今後ますます強まっていくだろうと見ています。

企業は女性を使いたいが意思決定権を持たせるかは別

【上野】おっしゃる通り、数は力です。海老原さんの予測は若年世代の女性割合が年齢とともにそのまま管理職の女性割合に反映することを前提としていますよね。現実的には、女性は係長までは昇進しているものの、その上の課長、部長、役員となるとやはり壁にぶつかっています。男性のようには勤続年数とポストが相関していません。現場の女性からも、昇進の壁の厚さは相当なものだと聞きます。

均等法1期生はいま50代、死屍累々のなかの例外的なサバイバーで、その中から「初の女性役員」が生まれている状況です。その次のポスト均等法世代の40代は、職場での働き方も家庭での夫のふるまいも変わらないまま奮闘してきた世代。男性管理職の働き方を見て、昇進を躊躇しています。その後の第3世代が30代。彼女たちは50代も40代もロールモデルにならないと言います。

【海老原】全企業で見ると課長のうち40代女性が占める割合は16.8%にまで、大企業でも新任課長だと28.7%にまで伸びてきています。10年前に比べれば女性課長は格段に増えていますし、課長への昇進率も30代後半から40代では男性より女性のほうが高いほどです。ですから僕は、年齢を重ねるとともに課長まで昇進する女性が増えた、次は部長になる女性が増えるだろうと信じたいです。

【図表2】大企業の課長在職年数別の女性比率
※「賃金構造基本統計調査」(2020年)の役職別勤続年数より海老原氏作成。『少子化 女“性”たちの言葉なき主張』より