女性はいつになったら普通に働き、意思決定権を持てるようになるのか。働く女性の課題解決が遅々として進まないのはなぜか。『こんな世の中に誰がした?』が話題の社会学者・上野千鶴子さんと『少子化 女“性”たちの言葉なき主張』を上梓した雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんの対談をお届けしよう――。

日本の雇用における最大の課題

【海老原】僕は、日本の雇用における最大の課題は「働く女性に関する問題」だと考えています。現在では国も企業も女性に労働参加を求めるようになったのに、社会は相変わらず男性優位で、家事育児も女性に負担が偏った状態が続いています。働く女性に関する問題は、日本の労働・雇用における宿痾しゅくあ(いつまでたっても治らない病気)だと思います。

社会学者 上野千鶴子さん
撮影=市来朋久
社会学者 上野千鶴子さん

【上野】私もそう思います。その問題の原因は企業と男性の利害によってつくられた社会構造であり、女性はずっと苦しんできました。女性たちはそう声に出して主張してきましたが、聞く耳を持ってもらえなかったというのが現実です。

【海老原】僕も社会構造の問題は大きいと考えています。しかし、近年は労働人口の減少によって、企業も女性に働いてもらわないとやっていけなくなりました。だから、企業はそれこそ利害を考えて、働きやすいように制度を変えるなどして女性にすり寄ってきた。その結果、社会も企業もひと昔前に比べればいい方向に変化してきたように思います。今後はもっとよくなっていくのではないでしょうか。

女性のキャリアはどこかの段階で暗礁に乗り上げている

【上野】企業が女性に働いてもらいたいと考えているのはわかりますが、一体どこまで本気なのか、本当に変わるつもりなのか、私は懐疑的ですね。まだまだ企業にも社会にも微々たる変化しかなく、女性は相変わらず苦しんでいます。ですから、企業は変わりつつあるしこれからもっとよくなっていくだろうという海老原さんの楽観論にはあまり同意できません。

【海老原】ただ、近年は女性管理職も増えてきましたね。その陰には、2000年ごろから増えた大卒女性たちの頑張りがあると思うんです。彼女たちはまさにフロントランナー。まだ旧態依然としていた男性社会の中に放り込まれて、涙が出るようなつらい思いをしながら「女性ってこんなに有能なんだ」と見せることで企業の姿勢を変えてきた存在です。

【上野】女性の大学進学率が急速に上昇したのは90年代。それから後に社会に出た女性は、今40代になっています。彼女たちは、企業がその有能さに気づいたにもかかわらず、その働きに正当に報いてこなかったという現実を反映する存在でもあります。そして、今も企業の姿勢はほとんど変わっていません。その点はすでに実証研究や事例研究が積み上がっています。

同じように総合職入社した男女が数十年後、ポジションや給与にどれほど差がついているか。大槻奈巳さんの『職務格差』、佐藤直子さんの『女性公務員のリアル』、中野円佳さんの『「育休世代」のジレンマ』などを読むとよくわかりますが、結局、女性は帝王学コースに乗ることなく、どこかの段階でキャリアが暗礁に乗り上げています。