最悪のシナリオ

【海老原】企業も、もう年功給は無理だということで脱却を望んでいますし、すでに「背に腹を代えられない状況」だと感じ始めています。既得権益を手放さざるを得なくなる日も近いでしょう。

【上野】バブル崩壊時も、企業は背に腹を代えられない状況でしたが、そのときは労働コストを下げて、そのしわ寄せをほぼ女性に負わせるというあくどいやり方で乗り切りました。

ですから私は、このまま行ったら企業は労働力の再生産コスト、すなわち労働者の生活を維持する費用に関知しなくなるという最悪のシナリオも考えます。そうなれば日本社会には分断と格差が拡大します。日本にはますます希望がなくなるでしょう。だからこそ、海老原さんには企業と男性を変えてほしいと切望します。女性に向けてではなく、彼らに向けたメッセージをどんどん発信していただきたいですね。

【海老原】微力ながら頑張っていきます。

構成=辻村洋子

上野 千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者

1948年富山県生まれ。京都大学大学院修了、社会学博士。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門学校、短大、大学、大学院、社会人教育などの高等教育機関で40年間、教育と研究に従事。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。