買い物難民は、都市型難民

大きな特徴の2つめは、買い物難民は大都市に多いことだ。

買い物難民といえば、交通が不便な「過疎地の課題」の印象がある。これを裏付けるように各都道府県の高齢者に占める買い物難民の割合を見ると、離島が多い長崎県の41.0%を筆頭に、青森県37.1%、鹿児島県34.0%などが続いている。

だが、実数で比較すると全く異なる。ここが数字を読むことの難しさだ。最多は神奈川県の60万8000人で、大阪府53万5000人、東京都53万1000人、愛知県50万人など三大都市圏に位置する都府県が上位に並ぶ。都市型難民、というわけだ。

三大都市圏と地方圏を比較すると、買い物難民の人数は414万1000人と490万2000人と、大差がついているわけではないことが分かる。

買い物難民の45.8%は三大都市圏なのだ。

とりわけ東京圏に集中しており、買い物難民の5人に1人以上に当たる203万7000人である。

店舗が多く便利な東京圏において買い物難民が多いことは不思議に思えるが、最大の理由は東京圏に高齢者が集中していることにある。

高齢者の絶対数が多ければ、買い物難民の該当者も多くなるということだ。

国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の将来推計によれば、東京圏の2020年の高齢者数は927万3000人で全国の高齢者の25.7%である。これが、2050年になると1160万人を超え3割ほどとなる。2020年から2045年の間に増える高齢者の6割以上は東京圏だ。買い物難民は今後、どんどん「東京圏の難題」になっていくと言ってよい。

住宅街の空撮
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買い物をめぐる「環境」の悪化

これら大きな2つの特徴の背景にある要因に加えて、買い物難民を押し上げているのが高齢者の住居形態である。

内閣府の高齢社会白書によれば、高齢者の4人に3人は一戸建ての持ち家に住んでおり、高齢者住宅や施設で暮らす人は1%ほどでしかない。一戸建ての持ち家の場合、駅前などの商店街から少し離れた住宅地エリアに建っていることが多い。

押上げ要因は店舗側の変化にもある。郊外に立地する大型商業施設が増加し、住宅街近くにあった食品スーパーの撤退や商店街の衰退が目立つようになったことだ。こうした動きは東京圏も例外ではない。

ちなみに、店舗の変化に関しては状況の改善につながったところもある。コンビニとスーパーの中間規模の新形態の店舗が住宅街周辺に増え、都道府県レベルで見ると東京都などは買い物難民の実数が減った。

押上げ要因としては、公共交通機関の縮小もある。最近は東京圏を含めて路線バスやタクシーの運転手不足で廃路線や運行間隔の広がりが目立つようになった。推計は徒歩を前提として集計しているが、公共交通機関を利用して何とか買い物をしてきた人たちも今や困難さが増している。

このように、70代後半や80代の人にとっては買い物をめぐる「環境」がどんどん悪化しているのだ。