女学校の生徒は女性の憧れの的だった

靴下というのは靴とセットで使われるものです。小樽高等女学校では革靴を採用していました。そのため、女学校の生徒はみんな靴下を買わなければならなくなり、入手に苦労した、との記録があります。そうなればおのずと一定の需要が生まれてきます。

小樽の中でも靴下はある程度生産されていたと思われますが、主には輸入品が流通し、販売されていたことでしょう。値段も女学校の生徒が買える程度のものだったはずです。もちろん、決して安くはなかったと思いますが、入手することはそれほど困難ではなかったのではないでしょうか。

当時、若い女性にとって女学校の生徒たちは憧れの的でした。小樽近郊に暮らしていて、年に何回か街へと出てくるような人であれば、最先端の教育を受けるハイカラな女学生たちが長い靴下を履いているのを目撃していても、不思議ではありません。

アシㇼパもこうした最新の流行を横目でちらちらと見ており、「これは良いな」と思って何らかの方法で手に入れ、自らのファッションとして採用していた可能性は十分にあると思います。

2巻12話より
2巻12話より(©野田サトル/集英社)

2巻12話でアシㇼパは自分の名前の意味を杉元に解説しながら、「わたしは新しい時代のアイヌの女なんだ!」と語っていますが、実は彼女はファッションの面でも当時最先端の流行を見事に取り入れていた(!)のかもしれないのです。

今でこそ有名な「小樽の和洋菓子」のルーツ

明治末頃の小樽は北海道における物流の一大拠点で、最先端の流行や物品が入ってくる場所だということに触れました。やや脇道に逸れますが、関連する話を続けましょう。

『ゴールデンカムイ』には、実は当時の最新の文物がいろいろと登場しています。例えばピアノやオルガンです。

5巻40話より
5巻40話より(©野田サトル/集英社)

5巻40話では「ニシン御殿」にあるピアノを鶴見中尉が弾いています。明治半ば以降にようやく日本でも国産化されたピアノやオルガンですが、海外のものは主に学校や教会用に購入されていました。小樽では富裕層を中心に、個人でピアノなどを購入する例も多く、その一部は小樽市総合博物館にも所蔵されています。

2巻16話より
2巻16話より(©野田サトル/集英社)

2巻16話では、杉元が鶴見中尉から「花園公園名物の串団子」をすすめられています。現在、和菓子は小樽を代表する名産品のひとつになっていますが、実はそのルーツも明治期にあるのです。