「少子化対策は北欧を見習え」は本当か

そもそも子育て支援は、少子化であろうとなかろうとやるべきもので、出生増を図るための少子化対策とはまったく別次元の話です。少なくとも今までの過去の実績からも、子育て支援を充実させれば、出生数が増えるという因果は見られません。

それどころか、2007年に少子化担当大臣が創設されて以降、いわゆる児童手当などの家族関係政府支出GDP比は右肩上がりに増え続け、対1995年比で2倍増にまで拡充されています。予算が2倍になったにもかかわらず、出生数は逆に4割減です。もし、これが民間会社の事業プロジェクトなら、大失敗の事業として見直されるし、責任者は交代でしょう。

何も、家族関係の政府支出を削れという話をしたいのではありません。しかし、「この家族関係政府支出予算が北欧に比べて低いから日本は少子化なのだ」とか「この予算を北欧並みの比率まであげれば少子化は解決する」などという根拠のない言説を「有識者の見解」などとしてさんざん取り上げてきたメディアの責任も大きいと思います。予算だけつけても、出生数が増えるわけがないのです。

乳幼児を抱く母親
写真=iStock.com/Yuto photographer
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政府支出は日本の1.7倍でも子供が増えない事実

ちなみに、さんざん見習えといわれてきた北欧のフィンランドの家族関係政府支出GDP比は2019年実績2.9%で、これは同年の日本の1.7倍ですが、それだけ予算を割いているはずのフィンランドの2023年の合計特殊出生率は、速報値でもはや日本と同じ1.26まで下がっています。これを見ても、予算をかければ出生増になるなどという話ではないことがわかります。

フィンランドの少子化について、同国の家族連盟人口研究所のアンナ・ロトキルヒ氏は「フィンランドの家族支援政策は子を持つ家族には効果があったのかもしれないものの、本来の目的である出生率の上昇には結びついていない」と述べており、これが正しい事実認識であると私も思います。

もちろん現在の日本の出生減の原因は、出産対象年齢の女性の絶対人口が減少しているという物理的理由が第一にあり、日本においては、1990年代後半からゼロ年代頭にかけて起きるはずだった第3次ベビーブーム(第2次ベビーブームで産まれた子どもたちが親になる時期で出生が増えると見込まれたこと)が起きなかった時点で、未来永劫えいごう出生数という観点では増えないことが確定しています。

加えて、絶対人口が減少している上に未婚化で子を産まない女性も増えており(2020年時点で日本の女性の生涯無子率は27%)、人口減と非婚化というダブルパンチによる「少母化」が現在の出生減の要因です。1985年に比べて、1人以上の子を産んだ女性の数は60%も減少しています。どう逆立ちしても、出生数は増えません。