「考えるより、動け」は管理職の首を絞めることになる

そのようなマネジメントを受けたメンバーは、やたら上司の顔色をうかがいはじめるか、やたら反抗するようになり、その行動がさらに管理職の負荷を上げる、という悪循環が起こるということです(図表2)。

【図表】【図表】「マイクロ・マネジメント」が上司自身の負荷を増やす

これは筆者も含めて耳が痛い分析結果です。忙しくなればなるほど、「グズグズ考えてないで、早く行動に移ってほしい」「いいから言ったことだけきちんとやってほしい」という思いは、現場管理職の思考に絡みついてくるものです。

しかし、こうして管理職は自らの首を絞めていくことになります。管理職から毎日のように聞かれる「部下が自分で考えてくれない」「今どきの子は、指示待ちばかりだ」という声は、自分自身のマネジメントから導かれている側面がありそうだということです(※2)。しかもこうした行動管理は、組織的に奨励されている場合も多々あります。

例えば、営業機能を持つ会社の多くは、営業職に対していつまでに「何件電話する」「何件訪問する」といった定量的な行動目標を立てます。受注という目標に向けたプロセスを定量化し、そのプロセスをコントロールすることによって営業活動全体をマネジメントしようとします。「考えるより、動け」。これは多くの営業組織に共通して見られる暗黙の規範ですが、先ほどのデータを踏まえると、こうした営業プロセスの管理がどのような人材を育てることになるか、皆さんはもうおわかりでしょう。

(※2)こうしたマネジメント行動から、部下行動の影響について、厳密な因果関係を特定するのは容易ではありません。共に人間行動と人間行動の組み合わせである上に、職場という複雑な環境は、厳密な比較や時系列での分析が極めて困難だからです。部下の行動は学術用語でフォロワーシップ行動と言いますが、今後多くの研究の蓄積が望まれる分野です。

人事部と現場の認識は“すれ違っている”

さて、ここまで、管理職の負担増がロング・トレンドとして続きそうだということを確認してきました。そんな中で、企業の人事はどのような改善策を講じているのでしょうか。負担感が軽減されるような方策をとっているのならば、問題は徐々に解決していくはずです。

しかし、ここで見られるのは、現場と会社の完全なる「すれ違い」です。そのことを客観的に議論するために、人事部が管理職の課題をどう認識しているのか、また、それが管理職自身の認識と合っているのかについても調べました。図表3をご覧ください。

右側には、人事部門が考える管理職の課題が並んでいます。上位から「働き方改革への対応増加」「ハラスメントの対応増加」「コンプライアンスの対応増加」という項目が並んでいます。一方、左側には、管理職自身が感じている課題を高い順に並べています。こちらは「人手不足」「後任者の不在」「自身の業務量の増加」が上位に並んでいます。