ジャニー喜多川やダウンタウン松本人志の性加害事件など、社会を揺るがすスクープが新聞から出てこないのは、もはや当たり前になった。全国紙での記者経験がある柴田優呼さんは「女性記者から見ると、新聞社には岩盤のように強固な男性主観の壁がある。そのせいで働き方改革が進まないだけでなく、女性記者の意見が通らないため、性暴力問題を積極的に取り上げる動きも出てこなかった」という――。
ジャニーズ事務所の会見で待機する報道陣、2023年10月2日、東京都千代田区
撮影=阿部岳人
ジャニーズ事務所の会見で待機する報道陣、2023年10月2日、東京都千代田区

「松本人志と告発女性の対決を」と言った読売テレビ社長

新聞が社会のあり方を大きく変えていくような報道が明らかに減っている。現在問題になっている松本人志氏の性加害疑惑にしても、結局、追及しているのはジャニーズ問題同様、週刊文春だ。新聞は既に報じられた話を一部追いかけているだけ。ニューヨーク・タイムズがハリウッドに対して行ったように、かねてうわさされてきた芸能界における女性への性加害がどれだけ深刻か明らかにしていく絶好の機会なのに、感度は鈍い。人権問題というより、またも芸能ゴシップのようにとらえているようにも見える。

それどころか、読売新聞出身で読売テレビ社長の大橋善光氏が「松本氏と被害に遭われたという女性側が対決するなら、すぐにでも放送したい」などと発言し、大きな批判を浴びた。大手メディアの社長さえ性暴力被害者の置かれた心理状態や二次加害がどのようなものか、よく理解していないことを示すものだった。

大橋氏の発言は、視聴率を追い求めるテレビの節操のなさと結びつけられて批判されているが、大橋氏は読売新聞東京本社副社長など、新聞社内の要職を歴任した後、日本テレビ系列の読売テレビ社長に就任している。新聞社にいたとき、性暴力についての報道に真摯しんしに向き合っていたら、このような発言を安易にするとは思えない。

記者が性暴力の被害者の尊厳を傷つけるケースも多い

自衛隊での性暴力加害を告発した五ノ井里奈氏が2023年1月に日本記者クラブで会見したときも、五ノ井氏に対して二次加害となるような配慮に欠けた質問を、年配の男性記者が行った。五ノ井氏の告発内容は、既に約半年にわたり再三報じられていた。それを考えると今さらなぜというあまりに基本的な質問でもあった。嫌がらせでないとしたら、性暴力取材に対する無知をさらけ出しているとX(旧ツイッター)で多くの批判が集まった。

新聞・テレビ関係者が会見の場で、性暴力の被害を受けたと訴えている女性の尊厳を傷つける発言を平然と行うといったことが、いまだに相次いでいる。こうした発言の背景事情として考えられるのが、男社会である新聞社特有の閉鎖性だ。記者たちは大学卒業から一括採用で入社し、退社まで過ごす。最近までその大半が男性で、男中心の集団が形成されてきた。

新聞の根底にあるのは、「岩盤のような男性主観」。毎日新聞で25年働き、日本新聞労働組合連合(新聞労連)委員長を務めたジャーナリストの吉永磨美氏は、そう話す。「岩盤のような男性主観」とは、組織のマジョリティーである男性たちが良しとする考え方のことだという。たとえば働き方だと、「24時間戦える」ことが理想的。でも出産や育児のため、それができない女性記者にとっては、キャリアを阻害する元凶でもある。