「当直月8回」という“非人道的”な職場

(3)「効率化する」の現状と課題

「医師の働き方改革」「医療の効率化」の切り札とされるのが「病院の集約化」である。国立・市立・日赤・済生会・医大附属病院……日本は昭和時代より設立母体の違う中小病院が乱立しており、その非効率ぶりはコロナ禍でも問題視された。

年功序列文化が強く、乱立する病院それぞれに院長・副院長・理事・参与・センター長といった高齢管理職が在籍する一方で、若手医師は「当直月8回」のような過酷な勤務体制を強要されやすく(医師の中には「非人道的」と形容する者もいる)、それに耐えられなくなった一部の若手医師が「美容外科などへの転職」も後を絶たないのも事実だ。

しかしながら、4月からの「最悪の場合は懲役刑」という法律の施行を前に、長年の課題であった病院の統廃合も徐々に進めている。3つの病院が合併すれば、院長ポストは1つになり管理職ポストも減るが、当直回数を3分の1にすることが可能である。

兵庫県三田さんだ市の三田市民病院は、神戸市の済生会兵庫県病院と再編統合して、両病院の中間地点である神戸市北区に移転する予定だった。しかし、2023年7月の市長戦では「三田市から市民病院を消さない」「神戸市移転を白紙撤回」と公約した候補者が新市長に選ばれた。8月には「病院の集約化」および「働き方改革」が握りつぶされそうになった三田市民病院の医師59人が、「集約化しないなら退職」と宣言した。結局、11月には市長が「白紙撤回を撤回(つまり集約化推進)」することとなり、「公約違反だ」「だったら辞職して選挙やりなおせ!」と市民に詰め寄られる事態となっている。

そうしたゴタゴタはあるが、「働き方改革」や「日本の人口減少(特に地方)」が既定路線である以上、市町村や国立私立を超えての病院再編は今後も続くだろう。

乱用される「自己研鑽」

「働き方改革」施行が近づくにつれて、医師(特に勤務医)がよく聞くようになったフレーズがある。「自己研鑽」である。本来の自己研鑽とは「自らの知識の習得やスキルアップを図るために自主的に行う学習や研究」のはずだが、「長時間労働の抑制」を要求された病院管理職は、「労働時間を圧縮しつつ、人件費を節約する魔法の言葉」として「自己研鑽」を多用するようになった。

2022年、神戸市の病院に勤務していた3年目医師(26歳)の自殺が過労自殺と労災認定された。労基署が認定した「直前1カ月に200時間超の時間外労働」「100日連続勤務」に対し、この医師が申告できた時間外労働はわずか7時間であり、病院側は「自己研鑽の時間も含まれる」と説明している。193時間が自己研鑽というわけだ。

通りを駆け抜ける救急車
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2023年11月、名古屋大付属病院が「勤務医が時間外に病院に残り、学生に教えたり研究論文を書いたりしても労働時間と認めず自己研鑽として扱っている」ことが報じられた。さすがに「教えられる側ならばまだしも、教える側を自己研鑽と主張するのはムリ筋だろう」と医療関係者でなくても思ったのではないだろうか。

そこへきて2024年1月に厚労省が、想定外の指針を発表した。「大学病院勤務医の教育・研究は労働に該当する」というものだ。

厚労省が明示したのは「医学部生らへの講義▽試験問題の作成・採点▽学生らの論文の作成・発表に対する指導▽大学の入学試験や国家試験に関する事務▽これらの準備は労働時間に該当する」というものだ。

これには全国の勤務医が珍しく厚労省を称えた。その結果、病院の管理職がさらに難しい労務管理が要求されることになるのは必至だ。

徐々に、医師の働き方が変化すると、患者にも一定程度の影響が出ることは予想される。例えば、「入院制限」や「外来診療時間の短縮」などだ。そうなると、患者側からの病院バッシングが始まる可能性がある。なぜなら……。