小柄でやせ細った体は実母から受け継いだものだった

「わては、若い頃にあちこちで女中奉公してましてな、あんたが小さい頃にもようおりをしました」

などと嘘で塗り固めた話ばかりで、自分が実の母親だとは絶対に言わない。涙を見せることもなく、その表情はほとんど動かない。松竹に入ってから静子は人をよく観察するようになっていた。相手が何を考えているのか、言葉に出さない感情や意図を機敏に察して先に動く。下積み時代の楽屋で会得した技なのだが、能面のような鳴尾の表情からは、何も察することができなかった。

静子にもそういったところがある。神経質で色々と気に病むことは多いのだが、人前ではけしてそれを表にださない。他人を信用していないだけに、自分の弱みを知られたくないのだろう。「明るい」「ガサツ」「さばさばしている」などと人からよく言われる性格も、弱い自分を隠すための演技? そう思ったりもする。

鳴尾と対面してから数日後、静子は大阪に帰って仕事に復帰した。伯父や伯母は自分たちの失態をうめに知られることを恐れて、絶対にこの事を話さないようにと何度も口止めしてきたが。言われずとも話す気など毛頭ない。

静子はこれまでと変わらぬ態度で家族と接した。それを見て、うめも「約束は守られた」と安堵あんどする。お人よしのうめをだますことは簡単だ。が、騙しているという負目がずっとついてまわる。それを隠して平静を装いつづけるのは苦しかった。

実母は母親だと認めず、静子は養母に知らなかったふりを

自分と会った時の鳴尾も、あの無表情の裏側で沸き起こる感情を必死で抑えていたのだろうか。そんなことを考えたりもする。しかし、彼女の本意はまったく分からない。やっぱり、自分とあの人は似ているのかもしれない。自分はあの人から産まれたのだと確信するようになっていた。

だからといって、うめに対する信頼や愛情が揺らぐことはない。自分の母親はこの人だけ。その思いは変わらない。何を考えているか分からない実母とは違って、うめは分かりやすくたっぷりの愛情を注いでくれる。この世で一番、自分のことを愛してくれている人だ。それは間違いないのだから。

静子にはこの育ての親から受け継いだものも多くある。うめは苦しみや悲しみを笑い飛ばして忘れてしまうタフで明るい女性だった。人情に厚く困った人をほってはおけないおせっかい。そんな性格だから多くの人に好かれる。

自分も他人からそんなふうに見られたい。と、あこがれてもいた。静子は味方と思う人々には深い愛情を注ぎ、恩をうけたら倍にして返す義理堅さがある。このあたりは、うめの影響が大きかったのだろうか。