30代で“あきらめがつく”ことのメリット

多くの企業がこの方向に人事制度を変えると、男女の意識にどんな変化が起きるでしょうか。

現状なら、査定のたびに小さな昇給を重ね続けます。そうすると、うだつの上がらない人も、多少遅れながら、給与や等級を上げていくことになります。そして、役職定年になるころ、「俺は課長になれなかったんだ」と初めて気づくでしょう。

これでは男性たちは、出世を諦めきれず仕事にしがみつき、家事育児を主にする決心がつきません。洗い替え型の査定であれば、評価が低い人は昇給せず、当然、等級アップもしません。それが続けば、30代後半あたりには、会社での将来は見えてきます。

そうした場合、パートナー間で、可能性があるほうに道を譲り、もう一方は家事・育児を主にするという決断がしやすくなるでしょう。

スケールの上で均衡がとれているお金と結婚
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こんな変革が進めば、「うだつが上がらなくとも家事育児はしっかりやる男性」が増えます。彼らなら、自分より“偉く”はなくとも、女性はパートナーとして見なすようになるのではないでしょうか。

「自分と同等か上でなければ」から、自分との比較ではなく、二人合わせてこれくらい収入があればいい、家事分担はこうすればうまくいきそう……と現実的な考え方になっていく。そうすることで、ポジションや給料については自分より少し下のあたりまでウイングを広げることができそうです。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。