公的資金で潜在保育士100万人の活躍を

民間でも同様に、「負担と心の問題」に取り組む好事例はあります。

日立製作所は、社員向け保育所を新宿や渋谷などのターミナル駅に設けているそうです。社内につくるのも一案なのですが、そうすると、子連れで長い時間、満員電車に揺られねばなりません。ターミナル駅であれば、乗車時間も短いし、病気の時なども勤務先からすぐ迎えに行けるでしょう。こんな仕組みも公費で誘導していけるはずです。

ターミナル保育園の設置を助成するだけでなく、保育士の派遣事業にも補助金を出して、そこからスタッフを送るという仕組みも良いかもしれません。2018年度のデータで、保育士は資格取得者が154万人もいるのに、保育園で働いているのは59万人しかおらず、残りの95万人は資格をいかせていないそうです。なぜ、保育士を辞めたのかという理由の上位には、ブラックな環境や低待遇などが挙げられます。こうした潜在保育士を集め、社会の各所で育児をサポートするのも良いでしょう。公的な助成で立ち上げた事業であれば、ブラックな違法行為に対して厳しい監視も可能で、潜在保育士の現場復帰が進むでしょう。

病児保育施設までの送迎をフリー看護師が行う仕組み

少々関係する話ですが、育児と仕事の両立で一番問題となることの一つが、子どもの体調不良時の早退・中抜けです。現状では、病児保育という仕組みがあるのですが、この受け入れ枠が小さく、また病児保育をしている施設まで、やはり子どもを送り迎えしなければなりません。こうした厄介な問題へも、公的支援でソリューションをつくったらどうでしょうか。

こどもの額に左手の甲を付け、右手で体温計を確認する母親
写真=iStock.com/Suzi Media Production
※写真はイメージです

保育士同様、潜在看護師も現在70万人以上いると言われています。彼女らを管理・派遣する事業に助成金を出し、子どもの体調不良時に、病児保育施設まで送り迎えをしてもらうようなサービスが想定されます。

こうやって、「育児って厄介だな」と思われる部分を取り除き、同時に、「育児は社会全体で」という常識をつくっていく。いたずらに小金をばらまく施策はもうやめにして、「負担」と「厄介な常識」をなくしていく方向に、公費誘導を願いたいものです。

かつては、老親や地域コミュニティが子育てを両親に代わってしてくれました。それが難しくなった現在は、国主導であらたな「地域子育て」策を拡充していくべきでしょう。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。