鉄道事業者が銀行分野に進出する狙い

新しい収益源を確立するため、JR西日本はWESTERアプリを投入した。アプリの利用者を増やすために、他企業との連携の重要性は高まった。その一つとしてモバイルスイカなど金融関連の事業を強化したJR東日本と連携した。その後、JR東日本は当局の許可を得たうえで銀行分野に進出するとも表明した。

足許、JR西日本はWESTERアプリにスマホ決済なども実装し、利便性を高めようとしている。中国やアジア新興国など海外を追いかけるように、わが国でもQRコード決済の普及に弾みがついた。スマホ決済サービスを提供する“ペイペイ”の特許出願件数が3メガバンクを上回ったことは、そうした変化を支えたと考えられる。

また、交通系電子マネーなどと比較すると、QRコード決済の導入コストは低い。駅ビルの小規模テナントなどにも導入しやすい。環境変化に機敏に対応しつつ収益分野を拡大するために、JR西日本はアプリの機能強化を急いでいるように見える。

もはや銀行の専売特許ではなくなった

わが国において、JR西日本のようにスマホアプリを通して金融サービスを提供する一般の企業は増えた。その要因として、世界経済のデジタル化の影響は大きい。

伝統的にわが国の金融業界では、銀行の存在感が大きかった。大手行や地方銀行は、人通りの多い主要駅の前など一等地に店舗を構えた。人通りが多い分、店舗を訪れる人は増える。潜在的な資金需要の機会を発掘する可能性は高まる。

また、銀行は決済などのデータを迅速、確実に処理するために、大規模なサーバーを設置した。ITシステムの開発、構築、メンテナンスなどのために大型のビルを確保し、専門の人材も多く配置した。政府は経済全体での円滑な資金の融通を実現するために、免許制度の下で銀行業界を厳格に管理した。銀行分野への新規参入は容易ではなかった。

リーマンショック後、環境は変化した。スマホの普及、SNSの利用増などを背景に、世界経済のデジタル化が進んだ。銀行が提供した口座振替決済、信用審査、資金運用などの分野に、非金融分野の企業が相次いで参入した。特に、分散型元帳技術などと呼ばれる“ブロックチェーン”のインパクトは大きかった。