リブランディング戦略により主力商品を「Tanium XEM」プラットフォームに統一し、新たな成長軌道を描く米国系セキュリティ企業のタニウム。リブランディングを主導したチーフマーケティングオフィサー(CMO)のスティーブ・ダヒーブ氏に、リブランディングの経緯とTanium XEMの特徴や優位性、さらにテック企業におけるマーケティングの役割などについて語ってもらった。

全端末を単一プラットフォームで管理する「Tanium XEM」

――タニウムのエンドポイント(端末)保護ソリューションであるTanium XEMとは、どのような特徴を持った製品なのでしょうか。

【ダヒーブ】官庁や大企業などの巨大組織においては、社内システムに接続されている端末の数は膨大で、その管理とセキュリティの確保が大きな問題となっています。

Tanium XEMは社内LAN、WAN、テレワークによるインターネット接続の端末など、さまざまな環境から数十万台規模の端末が接続されたシステムにおいて、各端末の置かれた環境の区別なく各種情報を収集、一元管理します。その動作はきわめて高速で、全端末情報の収集に数秒から数分しかかかりません。

端末自体をセンサーとして機能させることにより、セキュリティポリシーに適合していない端末を検出し、パッチの適用やソフトウェアの配信を行うことができ、また従業員が自宅PCやスマホを社内のネットワークに無断でつなぐなど、管理サーバーが認識していなかった端末があった場合も、これを検出し管理下に置くことができます。

Tanium XEMは、基本機能を備えた「Tanium Core Platform」をベースに、非管理端末の検出、パッチ管理、脆弱ぜいじゃく性の検査など、必要な機能を持つ複数の拡張モジュールを組み合わせてシステムを構成します。組み合わせは柔軟に変更でき、クラウドやオンプレミスなど多様な環境で利用することができます。

端末台数の増加に伴う中継サーバーの増設も不要で、システムの設計・構築・管理の工数を大幅に削減することが可能です。

スティーブ・ダヒーブ
Steve Daheb
タニウム
チーフマーケティングオフィサー

なぜリブランディングが必要だったのか

――かつてのタニウム製品は「IT運用管理」と「セキュリティ」とに分かれて販売されていたと聞きますが、これを統合し、Tanium XEMとするリブランディングを進めた理由は何ですか。

【ダヒーブ】世の中の端末保護製品には単機能型のものが多く、ある問題を見つけるためにひとつのソリューションを使い、それを別のソリューションを用いて解決するといった状態が普通です。

現在ではクラウドが多様なアプリケーションをまとめる場となっていますが、その中にあってエンドポイントのセキュリティは複雑化が進み、さまざまなソリューションが存在しているにもかかわらず、そうしたアプリケーションを導入しても、システム全体の安全性が完全に確保できるわけではありません。

タニウムではこの現状を改めるため、複数のセキュリティ・ソリューションを統合し、セキュリティ上の各種の問題を発見し解決することを、単一のプラットフォーム上で完結できる形に変えたのです。

これは私がCMOとしてタニウムに参画した際、「カスタマー目線で考えれば、こうあるべきだ」と提案して採用されたものです。お客様にはセキュリティのみを求めてタニウム製品を購入する人もいれば、IT運用の目的で購入する人もいますが、IT運用とセキュリティを統合した製品があれば、ひとつで両方の要望に応えることができます。

――従来とは違うやり方を提案して実現するには、進める側に信念や覚悟が必要だと思いますが、どのようにリブランディングを進めたのでしょうか。

【ダヒーブ】大きな改革を進める際は、それを推進する人間の「これが正しいのだ」という信念が大事になってきます。私の場合は、自分の考えをメッセージとして、お客様とのミーティングの中で発信し、お客様から好意的なフィードバックを受けたことで、「自分が考えていたことは正しかった」と確信することができました。そこで自信をもって「『単一プラットフォームですべての問題を解決する』という方向性でいく。これを信じてほしい」と社内の人々に私の信念を伝えました。

結果として私の考えは受け入れられ、私が入社して90日間ほどで、新しいカテゴリーの製品であるTanium XEMが誕生したのです。

――Tanium XEMは今後、さらに変革されていくのでしょうか。

【ダヒーブ】Tanium XEMは多くのソリューションを含む包括的なプラットフォームであり、今後の技術開発もこのプラットフォーム上で進められます。

一例として、「タニウム従業員デジタルエクスペリエンス(DEX)」があります。これはクラウドなどの技術を駆使し、企業でデジタルを活用している従業員の体験をより素晴らしいものにするためのアプリケーションです。

その一方、ブランドは一貫性を保つことが重要であり、Tanium XEMは今後、新たな技術を随時加えつつも、会社のアイデンティティを担う存在として、お客様と長くお付き合いできるブランドにしていきたいと考えています。

経営におけるCMOの役割とは

――現職に就くまでのダヒーブCMOの経歴を教えてください。

【ダヒーブ】私はIT業界に入って、もう30年になります。父がIT企業のCIO(最高情報責任者)を務めており、シリコンバレーで育ちました。

父はエンジニアでしたが、私自身はストーリーテリングや物の外観を考えたり、ブランディングすることが好きで、マーケティングの道に進むことにしたのです。

もちろん、父がエンジニアであったことから、私はIT関係の人々への共感を持ちつつ成長しました。父は、突然システムがクラッシュしたとき、問題に対処するために、深夜に起き出してオフィスに出かけるといったことも少なくありませんでした。私は、「この人たちを助けるためには、マーケティングを行う人間が必要だ」と感じました。今では、お客様の気持ちに寄り添うことが大事だとも考えています。そうしたシンパシー、共感が私のマーケティングの中核です。

――30年間ずっと、テック企業でマーケティングを続けてきたというと、まさにプロフェッショナルですね。

【ダヒーブ】そうであるとうれしいのですが(笑)。私はさまざまな企業でCMOを、30年で5回務めています。前職のオラクルではオラクル・クラウドのマーケティングを担当するシニア・バイスプレジデントでしたし、その前のシトリックスでもCMOを務めました。

私には子供が4人いて、一番上が娘、下の3人が男の子なのですが、娘は今、20歳で、マーケティングの勉強中です。

――ダヒーブさんからマーケティングの道に進むことを勧めたのですか?

【ダヒーブ】いいえ。子供たちは一人ひとり違います。それぞれが自分で決めた道に行くだろうと考えていました。そうしたらある日、娘が私のところに来て、「マーケティングを専攻することにした」と告げたのです。今はクラウドソフトの会社でインターンシップを始めています。

――それはうれしいですね。ダヒーブさんご自身はCMOとして、どういった点にやりがいを感じていらっしゃいますか。

【ダヒーブ】私は会社の成功と成長を助け、維持することがマーケティングの意義だと考えています。世界には多くの企業、多くのテクノロジーがあり、その中で他と差別化し、自社の製品やサービスを目立たせて埋もれないようにするのが、マーケティングの役割です。企業は商品を開発するだけでなく、マーケティングを行うことで初めて成功がかないます。その意味でマーケティングはビジネスにおいて非常に重要なポジションを占めています。

私はまた「マーケティングはお客様の声」とも考えています。お客様の声に耳を傾け、理解し、会社に伝えていくこと、それもマーケティングの大事な役割です。

私はそうしたマーケティングのさまざまな要素が好きだし、重要なものだとも思っており、今の仕事に誇りを持っています。

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