ストレスで腸の調子が悪くなるメカニズム

ではそもそも精神的なストレスで腸が不調になるのだろうか。そのメカニズムはどういうものなのか。ポイントは“あるホルモン”の存在にあった。

【図表1】精神的なストレスと腸の状態の相関
超一流の腸活術 最高のパフォーマンスを生み出すための食事法と習慣』(KADOKAWA)より引用/Enck P,et al.: Nat Rev Dis Primers 2016;2:16014.

STEP1 緊張や不安、苦痛などを脳がストレスとして認識すると、脳の視床下部という部分から「副腎皮質ふくじんひしつ刺激ホルモン放出ホルモン(CRH:コルチコトロピン・リリーシング・ホルモン)」というストレスホルモンが分泌される。

STEP2 血流や神経などを介してCRHが腸に到達する。

STEP3 腸粘膜内の粘膜固有層に生息する「肥満細胞」という細胞が、CRHの刺激でパチンと弾け、「ヒスタミン」という顆粒状の化学物質を放出する(脱顆粒かりゅう)。

STEP4 ヒスタミンの作用で腸の粘膜固有層に炎症が起こる。脳から腸まで届いている神経は、この炎症を「おなかの痛み」として感じる。つまり、「過敏性腸症候群(IBS)の原因のひとつは、腸のバリア機能の障害」とも言える。

STEP5 さらにその炎症によって腸のバリア機能(タイトジャンクション)が壊されてスカスカになる。

STEP6 スカスカの腸粘膜から、さまざまな細菌や毒素(LPS:リポポリサッカライドという毒素など)などの有害物質が腸管内や血流に漏れ出して全身に不調を引き起こす。

腸でできた尿毒症物質(Pクレゾールやインドールなど)が、腸から漏れ出て血液を介して腎臓に達すると慢性腎不全を進行させる(腸腎連関)。小腸と最も近い臓器は肝臓であり、腸由来の毒素(LPSや腸内細菌由来の外膜小胞〈OMV〉など)が腸を通り抜けて血液中に流入し、門脈という血管を通って肝臓にたどり着くとNASH(非アルコール性脂肪肝炎)や肝硬変の増悪を引き起こすことがわかってきた(腸肝相関)。このように、腸の健康は全身の健康と関連している。