心をこめて「どうぞ」「どうか」にひと工夫を

また、お願いのほか、よろしくと伝達してほしい場合、健康に気をつけてほしい場合に使える副詞として「どうぞ」「どうか」があります。両者ともほぼ同じ意味ですが、「どうぞ」のほうが一般的で、「どうか」を使うと懇願のニュアンスが加わります。

ご両親さまにもどうぞよろしくお伝えください。
寒さ厳しき折、どうかお身体をお大切になさってください。

「どうぞ」「どうか」は「よろしくお願いします」とのセットが多いのですが、「お気遣いなく」「ご心配なく」「お気になさいませんように」「お気に留められませんように」など、心遣い無用というときにも使えるとよいでしょう。

「どうぞ」「どうか」のかわりに、あるいは「どうぞ」「どうか」と組み合わせて、「くれぐれも」を使う方法もあります。強く気持ちを込めたいときに向く表現です。

当日はお世話になりました。くれぐれもお礼をお申し伝えください。

強くお願いしたいときは「どうぞ」だと軽い印象が出る一方、「どうか」だと個人的に強くお願いしている印象が出ることがあります。そんなときに便利なのが「なにとぞ」です。

ご多用の折、誠に恐縮ですが、なにとぞよろしくお願いいたします。
部下に指示する男性
写真=iStock.com/mapo
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大人なら20の副詞をビジネスシーンで使いこなせ

ここまでは、感謝や謝罪、お願いの言葉そのものに使う副詞でしたが、その直前に使う副詞として「ひとえに」「おかげで」「さぞ」が使われることがあります。「ひとえに」はそれ以外にないことを、「おかげで」は相手のサポートが力になったことを示して感謝を強めます。「さぞ」は相手の気持ちを察して共感を示す表現です。

こうして卒業論文が完成できたのは、ひとえに先生のご指導のたまものです。誠にありがとうございました。
おかげで予定よりも早く契約に至ることができました。ご尽力に心から感謝申し上げます。
ここに至るまでさぞご苦労がおありだったことと拝察いたします。にもかかわらず、つねに笑顔でご対応くださったこと、感謝に堪えません。

以上、「わざわざ」「せっかく」「さすが」「あいにく」「本当に」「たいへん」「誠に」「深く」「厚く」「謹んで」「心から」「重ねて」「あらためて」「どうぞ」「どうか」「くれぐれも」「なにとぞ」「ひとえに」「おかげで」「さぞ」という20の「大人の副詞」を挙げました。これら20の「大人の副詞」を見た読み手は、きっと書き手が読み手に寄り添い、配慮してくれたことを実感するでしょう。それが、両者の信頼関係の醸成につながります。

石黒 圭(いしぐろ・けい)
国立国語研究所教授、一橋大学連携教授

1969年大阪府生まれ。神奈川県出身。国立国語研究所日本語教育研究領域代表・教授、一橋大学大学院言語社会研究科連携教授。一橋大学社会学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門は文章論。『論文・レポートの基本』(日本実業出版社)など著書多数。