もしもあなたが、3頭のライオンに襲われたら――。本当にそんな状況から生還した青年がいる。

鋭い爪が足首に食い込み、すごい力で引き寄せられる――圧倒的な狩猟能力を持つライオンからカイザー君はどう逃れたのか。

2005年3月、南アフリカの高校生デーン・カイザー君(当時16歳)は、母親の友人がライオンを飼っている牧場を訪れていた。散歩の途中で、カイザー君はフェンスのそばに足を投げ出して休憩した。1頭の雌ライオンが、フェンスの向こうに寝そべっている。

いきなり足首に激痛が走り、フェンスのほうに引きずられた。フェンスの土に埋まった部分がさびて穴が開いており、ライオンはそこから前脚を伸ばし、カイザー君を襲ったのだ。爪は足首の骨まで届き、身動きが取れない。カイザー君はとうとう、フェンスの向こう側へ引きずり込まれた。2頭目、3頭目のライオンも近づいて来る。

この絶体絶命の状況から、カイザー君はどう脱出したのか。キーワードは、「死んだふり」と「アドレナリン」だ。

「死んだふり」は動物行動学的には「擬死」と呼ばれ、いくつかの昆虫や哺乳類で見られる。ライオンやクマなど多くの猛獣は死んだ動物も食べるから、あまり有効ではないというのが定説だが、相手を刺激しないことで致命的な攻撃を防ぐ効果はあるかもしれない。今年の5月にチーターに襲われた女性も、死んだふりで難を逃れたとか。

3頭のライオンにのしかかられたカイザー君は、頭と首を腕でかばいながら死んだふりをし、チャンスを待った。そのうち、2頭のライオンがケンカを始めた。そして、駆けつけた彼の母親がフェンスの外で叫び声を上げると、ライオンはそちらに気をとられ、カイザー君の体から爪を抜いた。

その瞬間、カイザー君は逃げた。ここで威力を発揮したのが、「火事場の馬鹿力」のもととして知られるアドレナリンだ。脚の筋肉が何カ所もえぐれるほどの重傷を負ったにもかかわらず、カイザー君は機敏に行動。落ちていた棒を拾って立ち上がると、ライオンをけん制しながらゲートへ。

「不思議と痛みも感じませんでした」

母親はゲートからカイザー君を引きずり出し、すぐ病院へ。手術と懸命のリハビリの末、カイザー君は好きなラグビーができるまでに回復した。

「猛獣がシマウマを狩るシーンがよくテレビでありますが、彼らにすれば、人間も狩りやすい食物にすぎないんです」と、ディスカバリーチャンネルで編成を担当する松本ちえこ氏は言う。皆さま、油断なきよう。