花粉症がなぜ国民病になったのか

悲しいかな、私はアレルギーのデパートだ。ハウスダストや猫でも症状が出る。花粉は当然のようにダメで、アメリカに行けばブタクサに悩まされる。なかでもつらいのが、やはりスギ花粉だ。春になると、杉並木で有名な箱根や日光にはけっして近づかない。新鮮な空気を吸おうと深呼吸するとひっくり返ってしまう。

昔からスギ花粉の被害に遭ってきた当事者として、1993年には『新・大前研一レポート』(講談社)の中で、国民的課題として花粉問題を取り上げた。それから約30年が経過したが、今や花粉症の罹患りかん率は40%を超えている。今回、岸田首相は日本の首相として初めて花粉症を社会問題と位置付けたが、遅すぎるくらいだ。

そもそも花粉症がなぜ国民病になったのか。話は戦後までさかのぼる。軍事物資や戦後復興の用途で木材の需要が伸び、各地で木が切り倒された。再造林するには、少しでも早く育つ木がいい。そこで日本の土壌に合っていたスギが選ばれて植えられた。

育ったスギをふたたび伐採していれば問題は起きなかった。ところが、64年に木材の輸入が自由化されて、価格の安い外国産木材が大量に輸入されるようになった。コストが高い国産木材は競争力が低下。植えられたスギは、育っても切られなくなってしまった。

スギは40年を過ぎて古木になると花粉を大量に出し始める。多くのスギが放置された結果、国民が花粉に苦しめられることになったのだ。

スギ花粉
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花粉症は現代病の1つだが、人々のライフスタイルの変化が根本原因ではない。国の林業政策が引き起こした病気であり、40%超もの国民を数カ月にわたって苦しめている。政府が責任を取って対策を講じるのは当然である。

実は花粉症対策は難しくない。最大の対策はスギの木を切ることである。シンプルだが、最善の対策だ。

それが容易にできないのは、いくつかの利権が存在しているからである。

まず林業の利権である。摩訶不思議なことに、日本の政府や自治体はスギの植林に補助金を出す。切るべき古い木を放置して、逆に植えるほうに補助金を出しているのだから、スギ花粉が飛び続けるのはあたりまえだ。

摩訶不思議といったが、日本の役所の体質を考えればわからなくもない。官僚は仕事を増やすことはあっても減らすという発想がない。前出のように日本は戦後、スギを植える必要に迫られた。このときつくった補助金の仕組みを、今も止められないのである。