静岡県が地下水への影響などを理由にリニア中央新幹線の着工を拒否している。ジャーナリストの小林一哉さんは「開通が2040年以降にずれ込む可能性も出てきた。議論が進まないのは、川勝平太知事が『議論のゴール』をずらし続けているからだ」という――。
大井川、静岡県の蓬莱橋からの眺め、日本
写真=iStock.com/ziggy_mars
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リニア開業が2040年以降にずれ込む可能性が出てきた

「静岡で工事の見通しが立たず、大変心残りだ」

2023年3月24日、JR東海の金子慎社長(現会長)は社長退任前の最後の会見で、リニア中央新幹線の品川―名古屋間の2027年開業が大幅に遅れることに悔しさをにじませた。

金子社長が初めて静岡県庁を訪れたのは2020年6月。当初の予定通り2027年の開業を目指すには、もはや一刻の猶予もない状況だった。金子社長は川勝平太知事に静岡工区の準備工事再開を要請したが、川勝知事はその場で県条例を盾に要請を退けた。

2020年6月、JR東海の金子社長(当時、右)が川勝知事と初めて面談した。それから3年が過ぎたが、状況は変わらない(静岡県庁、筆者撮影)
筆者撮影
2020年6月、JR東海の金子社長(当時、右)が川勝知事と初めて面談した。それから3年が過ぎたが、状況は変わらない(静岡県庁)

それから現在に至るまで、トンネル工事の許可権限を持つ川勝知事は頑なに静岡工区の着工を認めようとしていない。たとえすぐに静岡工区工事が始まっても、リニア開業は少なくとも2030年以降になるのは確実だ。

状況は3年前と変わらないどころか、静岡県の地下水が県外に引っ張られる恐れがあるとして「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」などと隣県の工事ストップにまで口を挟み込んでいる。

山梨県の長崎幸太郎知事が5月11日、「山梨県の工事で出る水は、100%山梨県内の水」と当たり前のことを明言する事態にまで発展した。

県専門部会で配布された会議資料。赤い斜線部分が山梨県の断層帯と静岡県の断層帯が連動する可能性を示す。実際に地中深くで県境付近の断層帯がつながっているのかは不明。
県専門部会で配布された会議資料。赤い斜線部分が山梨県の断層帯と静岡県の断層帯が連動する可能性を示す。実際に地中深くで県境付近の断層帯がつながっているのかは不明。

このままでは2030年どころか、2040年以降に開業がずれ込む恐れさえ出てきた。

水源豊かな静岡で「渇水」は本当に起こるのか

筆者は静岡県出身だ。富士山の豊富な湧水をはじめ大井川、富士川、天竜川など静岡県が水資源に恵まれていることを十分承知していた。「渇水」で水飢饉に見舞われた経験などもなく、それだけに、川勝知事の「命の水を守る」という発言に違和感を抱いていた。そこで、川勝知事が4選を決めた2021年6月の知事選後、「命の水」の真実を調べ直した。すると、調べれば調べるほど、川勝知事が固執する「命の水」は虚構にまみれた「ハリボテ」だったことがわかった。

本稿では、リニア計画の“夢”を砕こうとする川勝知事の嘘と脅し、ごまかしをあらためて明らかにしていく。