「尊敬の念しかございません」の意図に気づけない

ベートーヴェンは作曲家としての偉業と共に、数々の恋愛遍歴も有名である。さすがは作曲家だ。好きな人ができると相手に曲を贈り、熱烈にアプローチをしていたよう。しかしいつも振られてしまう。彼は生涯独身だった。この失恋の数々は身分の違いという社会的側面で語られることも多いが、そこを女性視点でも考えてみよう。

ある時には一度振られた女性が結婚したのち、未亡人になった後に懲りずに再度アプローチする。「尊敬の念しかございません」と丁寧な返事をいただいたにもかかわらず諦めない。断られていることを理解できていますかと言いたいくらい空気読めなさを発揮した。

「尊敬の念しかございません」って「本当に素敵!」ではなくて、「男としては見られません」という辛辣な内容を穏便に返答しているだけで女性側の割と丁寧な配慮なのだが、そこはわからなかったのかもしれない。

ベートーヴェンの妄想的恋愛突進自爆はいつも同じパターン。熱烈な恋に落ちて、手紙や曲を贈りまくる。さらには自分の友人に宛てて「もうめちゃくちゃ可愛い子がいるんだがww(意訳です)」と手紙を送る。もう素晴らしく有頂天な感じだ。情熱的で猪突猛進的な性格が恋愛に強烈に表れる。そういう強引さが時として魅力とも思えるが、結局はフラれてしまう。

「月光ソナタ」は14歳の少女に贈ったもの

30を過ぎてもなおその勢いは衰えず、次の恋の相手もまた、自分にピアノを習いに来た美しい14歳の少女ジュリエッタだった。この時も「この娘と結婚したら幸せになれそうwwwなんなら病気も大丈夫かもww(意訳です)」のような手紙をまた友達に送っている。

名探偵コナンの神回で有名な「月光ソナタ」はこの時の彼女に贈ったものだ。美しくロマンチックな楽曲だが、好きな人に贈るにはちょっと暗すぎない? と思わなくもない。伯爵令嬢という身分の差があったにせよ、ご想像のとおりこの恋(いっそ妄想かもしれないが)も、結婚というゴールにたどり着くことはなかった。

いよいよ40も過ぎた頃、彼は性懲りもなくまた恋愛をこじらせる。友達の紹介で知り合った(どこかの結婚式だったようだが)テレーゼ28歳に心奪われたのだ。この時作られたのが「エリーゼのために」というピアノ曲である。いや待て。テレーゼさんが好きで贈った曲がなぜエリーゼ宛てなのか。