投融資を積み増してきた米国と、停滞が続く日本

その理由の一つには、日米経済の差が大きく影響しているだろう。リーマンショック後、米国では超低金利環境の長期化観測が高まった。GAFAやスタートアップ企業なども、IT先端分野での成長期待も大きく押し上げた。超低金利環境と過剰な成長期待に支えられ、中堅行はIT先端企業や商業用不動産などへの投融資を積み増した。

それは景気が良い間は大きな問題にはならなかった。しかし、いつまでもよい状況が続くとは限らない。2022年3月以降は連邦準備制度理事会(FRB)が急速に利上げを行い、融資債権などの価値が急速に下落した。その中で、3月上旬、シリコンバレー銀行などは破綻し、米国の中堅行の経営に対する懸念は急速に高まった。

夕焼けと米連邦準備制度理事会(FRB)本部
写真=iStock.com/Douglas Rissing
※写真はイメージです

一方、わが国経済は長期にわたって停滞している。国内の銀行は国債の短期取引や住宅ローンなどによって利ザヤを稼ぐ状況が続いている。日米銀行セクターにおけるリスクテイクの水準感の差はかなり大きい。そのため、米国の中堅銀行の経営不安上昇がわが国の預金不安を高めるには至っていない。

1980年代の「S&L危機」の再来か

今後の展開次第では、米国の金融セクターの一部で、1980年代のような不安定な状況になる可能性は高まっている。1980年代、米国では貯蓄貸付組合(S&L)と呼ばれる金融機関の破綻が急増した。その要因の一つは、資金の調達と運用のミスマッチだ。

多くのS&Lは、預金など短期で調達した資金を住宅ローンなど長期の信用創造に回した。当時の米国では、故ポール・ボルカーFRB議長によって徹底したインフレ鎮静化が行われ、金利は大きく上昇した。その結果、多くのS&Lが預金金利の上昇(資金調達コストの増加)や、保有していた資産の価値下落に直面して破綻した。

その後、S&Lの経営はいったん落ち着いたかに見えたが、1980年後半、S&Lの経営不安は再燃した。主たる要因は原油価格下落によるエネルギー業界の業績悪化による不良債権増加、規制緩和による過度なリスクテイクだった。

資金の調達と運用のミスマッチ、過度なリスクテイクなどは、今回の米銀破綻にも共通する要素だ。足元、米国の中堅銀行の株価は合併交渉の破断やさらなる預金の流出懸念などから荒い値動きを伴いつつ下げ基調にある。