「イクメンにならなければ」と躍起になっていた

言葉に窮する荒井さんをさらに追い詰めるようで心苦しかったが、確かめておかねばならない。

「ほかにも何か、あるのですか?」
「そ、そうですね。うーん……イクメンにならなければならない、と躍起になったことで、足をすくわれたのかもしれません。イクメンが家族だけでなく、社会も良い方向に変えるのだから、そのために会社に社員の育休取得を推進させ、男性も自由に育休を取得できる職場環境をつくるため、僕が先頭に立って、なんて……。大きな間違い、でした……」

腹の底から絞り出すような声でそう話し終えると、ぐったり肩を落とした。荒井さんの営業成績はトップクラスで、同期の先陣を切って30歳で係長に昇進した。19年秋に3カ月間、育休を取得するまでは、課長就任間近と目されていた出世頭だった。

苦難は、育休からの仕事復帰後に待ち受けていた。育休に入る前は復帰後も職務内容は変わらないと上司から聞いていたが、実際に職場に戻ってみると、担当していた取引先はほかの社員の受け持ちになり、精力的に営業活動を行って次々と新たな仕事を獲得していた育休前の働き方とは異なり、営業データの分析など内勤を中心に担うことになったのだ。慣れない仕事で実績を出しにくいことに加え、本来の職務を外された悔しさや憤りなどから、なかなか仕事に集中できなかったという。

壁に手を寄せ合う男、暗い部屋
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
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育休前とくらべて評価は急落し総務部へ異動

その結果、半年ごとの人事考課は5段階評価で、育休前の最高評価から、下から2番目に急落し、その後も上のランクに戻ることはなかった。そうして、予想だにしていなかった総務部への異動である。

「残業続きの営業にいた頃と比べて、今の部署ではほぼ定時に終わるので、息子と向き合う時間はずいぶん増えました……で、でも……皮肉なんですが、以前のように子育てに前向きな気持ちになれないんです」

目の前の現実を受け入れられず、ただもがき苦しむ様子が痛々しかった。

荒井さんとは2008年、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)をテーマにしたシンポジウムで出会った。

それから6年後の14年、31歳で2歳年上の女性と結婚した。

「妻は出産後も仕事を続けたいと話していますし、僕も協力して、あっ、いや……協力、というのはおかしいですね。僕自身も主体的に子育てに関わっていきたいし、育休も取ろうと心に決めています。ただ、だからといって、仕事はほどほどに、なんて全然思ってはいませんよ。今も営業成績はトップクラスだし、出世して会社からも社会からも認められたい。つまり、仕事もお父さんも頑張る、ということですね」