男性上司が仕向けたケースも

取材の結果、女性記者からのセクハラ証言は多数集まり、テレビ朝日の女性記者のようなケースは、珍しいことではなかったことが分かった。なかには、男性上司にわざわざ取材相手と2人きりになるよう仕向けられ、被害に遭ったケースもあり、衝撃を受けた。

ジャーナリズムの世界こそ、真っ先にジェンダーバランスが求められるべきであることは明らかだ。ワインスタイン事件でも、トゥーイーさんたちのような女性の調査報道記者や編集者の頑張りがなければ、女性たちの性的被害の実態を暴くことはできなかったのではないかと思う。

被害者を取り巻く厳しい状況

日本の性被害者への対応も、他の先進国に比べてまだまだ遅れている。例えば、性被害に遭った女性が72時間以内に服用することで妊娠を防ぐことができる、緊急避妊薬(アフターピル)は、多くの先進国では無料で手に入れられたり、薬局で安価で購入できる。しかし、日本では産婦人科・婦人科で処方してもらわなければならず、価格も1万5000円から2万円と高額。緊急に服用しなければ効果がないにもかかわらず、女性たちの手に入りにくい現状がある。

また、福島県郡山市の部隊で複数の隊員から性被害を受けたと実名で訴えた元陸上自衛官の五ノ井里奈さんは、最近、記者会見でこう発言していた。

「私が顔を出して実名で告発し、世間が注目しなければ、組織は懲戒処分という重い処分を下すことなく事実を隠蔽いんぺいし、加害者は平然とほかの女性隊員に同じ行為を繰り返していたと思う。これからはハラスメントに対する処分を厳格化することで(こうした行為を)根絶してほしい」

今回のインタビューでは、トゥーイーさんの「目に見えない問題を解決することはできない」という言葉が強く心に残った。そして、「個人ではなくシステムに目を向けなければ問題は解決しない」という指摘は、日本社会にも大いに通じるものがあると思う。

日本社会の性被害への対応の至らなさ、ジェンダーバランスの悪さゆえに存在する問題、そして、ジャーナリズムのあるべき姿についても改めて考えさせられたインタビューだった。

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。