「自己肯定感」を高めることはいいことなのか。脳科学者の毛内拡さんは「自己肯定感は他人や過去の自分と比べることで得られる感覚のため、劣等感を強める恐れがある。それよりも『自分はこれをやった』という『自己効力感』を大切にしたほうがいい」という――。

※本稿は、毛内拡『「気の持ちよう」の脳科学』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。

手で顔を覆って座っている男性
写真=iStock.com/Naoyuki Yamamoto
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なぜ「気の持ちよう」で実際に効果を得られるのか

ただのビタミン剤だとは知らずに、よく効く薬だと思い込んで飲み続けていたら、本当に病気が改善してしまったという話を聞いたことはないだろうか。これは「プラセボ(偽薬)効果」と呼ばれており、いわゆる「気の持ちよう」の代表だが、どうして実際に効果が得られるのか、そのとき脳では何が起こっているのかは長年の謎だった。

最近の研究では、プラセボを服用するだけで、痛みの情報処理に関与する「島皮質」と呼ばれる脳領域において、痛みを感じたときに活性化する領域が有意に減少していることがわかっている。つまり、プラセボ効果による鎮痛作用は単なる気のせいではなく、本当に痛みを感じづらくしていたのだ。

さらに、プラセボ効果は痛覚の初期段階である触覚や内臓感覚を処理する「体性感覚皮質」の一部や、脳の実行機能に重要なはたらきをする「基底核」の活動も低下させていたことから、そもそも痛みが発生するのを抑えている可能性もある。

なぜプラセボがこのような効果を持つのかは、未だ完全には解明されていないが、ひょっとするとこれも「注意の分散」ということで説明がつくかもしれない。

そもそも何かを感じるというのは、知覚という脳のはたらきだ。仮に、視覚や触覚などの感覚入力が脳に入ってきても知覚されなければ、意識にはのぼらない。脳には目や皮膚などの感覚器からボトムアップ的に入ってくる情報と、経験や期待を頼りに感覚から知覚を構築するためのトップダウン処理がある。脳はあらかじめ予測を作っておき、それに合った情報だけを拾い上げることができる。