――高級ブランド品市場が拡大しています。いま、ラグジュアリービジネスで必要とされるのはどんな人材でしょうか。
LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン株式会社 代表取締役社長
エマニュエル・プラット

1948年生まれ。パリ大学文学部修士課程修了。75年、シャルジュール・レユニ社に入社。84年、モエ・ヘネシーグループに入社。91年より現職。LVMHグループ各社日本法人の代表取締役を兼任。1948年生まれ。パリ大学文学部修士課程修了。75年、シャルジュール・レユニ社に入社。84年、モエ・ヘネシーグループに入社。91年より現職。LVMHグループ各社日本法人の代表取締役を兼任。

プラット ラグジュアリービジネスを展開するには、2つのインテリジェンスが求められます。一つは感情を豊かにして創造性を高める力(emotional intelligence)。もう一つは理詰めでマネジメントできる力(managerial intelligence)です。相反するように見えるこの2つのインテリジェンスを磨いていくことが大事です。分析しつつ創造し、創造しつつ分析できる能力です。

そして、伝統と革新の間でバランスをとれることも大切です。シャンパンのモエ・エ・シャンドンが創業したのは1743年で、フランス革命よりも前のこと。日本で江戸時代中期にできたブランドが今日まで成長していることになります。ナポレオンはモエ・エ・シャンドンを愛してやまず、ロシア遠征でも手元に置きました。このような歴史と伝統を守りながら、なおかつイノベーションを起こしていくということです。

――今期から早稲田大学ビジネススクールに寄付講座を設けたのはなぜでしょうか。

プラット 欧米の企業が大学とパートナーシップを組むのはきわめて一般的なことです。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは、フランスのグラン・ゼコール(エリートを養成する高等教育機関)のESSECとは非常に緊密ですし、ロンドンのビジネススクールや中国の大学とも提携しています。高級ブランドのマーケティングには専門的な知識が必要で、それを使いこなせる優秀な人材を育てなくてはなりません。日本で初めて早稲田大学がラグジュアリービジネスに特化したプログラムを立ち上げることは意義深いことと考えます。

LVMHは、ファッションではルイ・ヴィトン、ロエベ、セリーヌ、ジバンシィ、ケンゾー、フェンディ、香水・化粧品ではディオール、ゲラン、時計・宝飾ではタグ・ホイヤー、ゼニス、デビアス、ブルガリ、シャンパンのモエ・エ・シャンドン、ドンペリニヨン、コニャックのヘネシーといった60を超える多彩なブランドを傘下に持っています。フランスで時価総額が最大の企業でもあります。ブランド各社は、それぞれの事業を独立性を持って運営していくとともに、グループとして経理、財務、販売、ネットワーク、ロジスティックス、人材の配置、広告宣伝などの分野で相乗効果を追求するということになります。

――ブランド価値を高めるためには何が大事でしょうか。

プラット LVMHの個々のブランドの価値を高めていくのがわれわれのミッションです。たとえば、ルイ・ヴィトンの製品は、すべて自前で育成した職人が自社工房で手作業でつくり、製品は世界各地の直営店を中心に正規店のみで販売しています。1854年の創業以来、値引きをしたことは一度もありません。また、製品のリペアサービスも充実しています。このようにこだわってつくった製品の価値が将来にわたって維持できるということが、お客様の信頼につながります。

――日本の市場は成熟し、人口減少と高齢化も進んでいます。このような環境ではどうすれば市場を拡大できるのでしょうか。

プラット 一つの解は、マーケットごとの特色を把握して、それにあった店づくりをすることです。いま日本が直面していることは、近い将来世界の他の地域で起こること。ですからこの市場でどう生き残っていけばよいか分析し行動することは、大きな挑戦と実験ともいえます。重要なマーケットである日本のビジネススクールで講座を持つことはたいへん有意義なことと捉えています。

※すべて雑誌掲載当時

(石橋素幸=撮影)