自ら経験した情報に説得力が宿る

ところで、商談で相手がこちらの条件になかなか納得してくれないとき、つい、「上司が何とかこれでお願いできないだろうかと……」と上司の指示をいい訳にして他力本願になりがちだ。それでは「単なる通訳」と鈴木氏はいう。

鈴木敏文●セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO。1932年、長野県生まれ。中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現トーハン)入社。63年イトーヨーカ堂入社。73年セブン-イレブン・ジャパンを創設して日本一の小売業に育てる。2005年セブン&アイ・ホールディングスを設立する。

「通訳になれば、まだいいほうで、通訳にもならないことが多いでしょう。なぜその条件なのか、上司から1時間かけていわれた話を、商談で先方に1時間かけて話すことなどできるわけがありません。話を省略して結論だけいえばいいかというと、逆に誤解を招きかねません。

例えば、誰かの講演を1時間聴いて、ものすごく感激したからといって、聴いていない人にふたことみことで伝えるのは至難のワザで、相手も関心を示さないでしょう。話のどこに感激したのか、一度自分のものにし、自分の言葉にして話せば、相手は耳を貸してくれるかもしれません。

商談も同じです。限られた時間でこちらの意思を伝え、理解してもらうには、上司の話を一度自分で受け止め、消化し、自分の表現に換えて話すことです。それで相手が理解してくれれば、自分の信用となって返ってくるでしょう」

セブン-イレブンの創業時にこんなことがあった。小型店舗に3000点に及ぶ商品アイテムをそろえ、24時間営業を行うまったく新しい業態だけに、業界の常識や商慣習の壁が次々立ちはだかった。それを突破しない限り、コンビニエンスストアのチェーンは成り立たないと、鈴木氏は一切、妥協しなかった。交渉先との板挟みで、ノイローゼ寸前まで追いつめられた部下もいた。