クラブのママが「俳優の○○さんに似てますね」という理由

と書きながら、思い出したのですが、以前、クラブのママから、こんな“種明かし”をされたことがあります。

クラブのホステスが、お客に向かって「俳優の○○さんに似ていらっしゃいますね」というのは、お客の気持ちをくすぐるためだけでなく、お客の顔と名前を覚えるためでもあるというのです。なるほど、初対面の人の顔を覚えるため、その人の顔を単純化し、分類するのは有効な方法といえます。漠然とした印象ではなく、「○○に似ている」と分類し、それを言語化してみる。そうすれば、相手の顔と名前を記憶に定着できる確率が大いに高まるというわけです。

ここで、年配者に限らず、誰でも使える記憶のコツについて、おさらいしておきましょう。

心理学では、記憶を「記銘」(入力)、「保持」(貯蔵)、「想起」(出力)の3段階に分けて考えます。「記銘」だけでなく、「保持」「想起」を心がけることも、“脳力”維持にとっては、重要です。「保持」に必要なのは、平たくいえば「復習」すること。記憶を定着させるには、とにかく「復習」することが大切です。

目や耳から脳に入力された情報は、まず「海馬」に一時保存されます。その後、海馬に保存された情報のうち、「必要性が高い」と認められた事柄だけが、「側頭葉」へ転写されるのです。側頭葉は、いわばハードディスクのようなもので、そこに転写されて初めて、記憶として定着します。一方、海馬に一時保存されたものの、その後「必要なし」と判断された情報は、側頭葉へ転写されることなく、海馬からも消えてしまいます。

“あれあれ、それそれ現象”を防ぐにはどうしたらいいか

では、脳が何をもって、その情報が必要かどうかを判断しているかというと、その情報が送り込まれてくる回数が最大の要因とされます。つまり、何回も復習すると、脳は重要な情報と判断し、側頭葉に転写して、長期記憶として定着させるというわけです。そして、記憶の仕上げは、「想起する」(思い出す)ことです。

疑問符が描かれたダンボールを被るビジネスマン
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高齢になると、人と話をしているとき、固有名詞がのど元まで出てきているのに、なかなか言葉にできないことが増えますが、専門的には、そうした“あれあれ、それそれ現象”を「舌端ぜったん現象」と呼びます。そうした現象を防ぐには、たびたび思い出しておくことが必要なのですが、では、どうやって想起すればいいのでしょうか?

これは、人に話すのがいちばんです。とりわけ、人に教えることは、ひじょうに効果的な記憶の定着法です。復習(保持に役立ちます)になるうえ、理解も深まり、かつ想起することにもなるからです。