長年の悔しい思いが、無防備な部下に向かう

パワー・ハラスメントする人は、今までの長年にわたる悔しい気持ちを、ある人に向かって放出している。

積年の恨み辛みを、ある弱い立場の人に向かって放出する。それがその場に不釣り合いなほどの激しい怒りである。「あいつを許せない」という激しい怒りである。実は怒りの本当の原因は「あいつ」ではない。

なぜ「あいつが許せない」のか?

それは昔「ある人」が強かったから。だから自分の怒りの感情をその人の前で表現できなかった。そこで今になって憎みやすい部下の些細なことを取り上げて「お前を許せない」と攻撃性の置き換えをする。

部下をだしにして、昔の溜まった感情を出している。意識から隠されていた昔の怒りや恨みが今の出来事をきっかけに出る。憎むことが危険な人への憎しみは、危険でない人に置き換えられる。攻撃は、比較的無防備な部下へと置き換えられる。

部下を責める根底には、昔の世界に対する不満がある。昔の不平と不満のはけ口を、今自分より弱い者に吐き出している。

早稲田大学名誉教授・加藤諦三氏。
早稲田大学名誉教授・加藤諦三氏。

一旦部下を責め始めると、それが合理化される

攻撃性を向けるべき人に向けている人は、パワー・ハラスメントなどしない。つまり、小さい頃から情緒的に安定している人は、パワー・ハラスメントなどしない。自分のパーソナリティに矛盾を含んでいない人は、パワー・ハラスメントをしない。

「全員が観覧するノートに何度も個人名を出され、能力が低いと罵られた」

一旦部下を責め始めると、部下を攻撃することが正当なことのように感じてくる。1度パワー・ハラスメントすると、同じようないじめをすることが、パワー・ハラスメントする人の心の中で合理化されてくる。

初めて個人名を出して侮辱するより、2回目に侮辱する方が心理的には楽になっている。ジョージ・ウェインバーグ(精神分析医、1929〜2017)がいうように、1度行動すると、その理由を心は受け入れる。この心理は、会社でパワー・ハラスメントされる人についても同じである。

「外で子羊、家で狼」も同じように、攻撃性の置き換えであろう。外では周囲の人に迎合する。その溜まった怒りを、家の人に吐き出す。そして家で狼になる人は、家の者を「けしからん」と思っている。そこが恐ろしいところである。こういう人は、家の人と一緒になって外敵と戦わない。