富士山は1707年に大規模噴火を起こしている。もし同レベルの噴火が起きると、首都圏にどんな影響があるのか。火山学者の萬年一剛さんの著書『富士山はいつ噴火するのか? 火山のしくみとその不思議』(ちくまプリマ―新書)より、一部を抜粋して紹介する――。
上空から見た富士山
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2020年3月発表の政府報告書に書かれていること

日本政府は2018年、「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」という専門家の会合を設けて宝永噴火(1707年に起きた富士山の噴火)並みの降灰がおきたら東京をふくむ大都市にどういう影響が発生するのかを検討させた。

2020年3月に発表された報告書の内容は多岐にわたるが、大きな問題が交通分野にあることが指摘されている。そのうち、電車は降灰にものすごく弱くて、うっすら積もるくらいで運行停止になるらしい。それは鉄道がレールの上を走れなくなるからではない。

鉄道は安全運行に関する情報、たとえば次の踏切に異常が無いかとか、前に電車が止まっている、みたいな情報を電気信号としてレールに流しているが、そうした電気信号は車輪を経由して運転士の元に届いている。ところが降灰があると車輪とレールのあいだに火山灰が挟まり電気信号が流れなくなるのだ。今の鉄道は、レールを流れる電気信号に頼った運行をしているので、そういう事態になると危なくて運行ができなくなる。

乗用車も強いとはいえない。四輪駆動とか4WDなどと呼ばれる4つの車輪すべてが駆動するタイプは問題ないが、多数派である二輪駆動の乗用車は乾燥している場合は厚さ10cm、雨が降ると3cmの厚さで走行が不能になる。宝永噴火と同じ降灰分布だとすると、東京は雨が降ると走行不能、降らなくても横浜あたりでは10cmを超えているので東名高速道路や一般道を使って神奈川や静岡方面と行き来することはできなくなる。

これは乗用車が道路の上を走れるかという点だけに着目したものだが、実際にはもっと薄い降灰でも問題になるだろう。