人から「表情が明るくなった」と言われる理由

その考え方が変わったのは、たくさんの高齢者の方々を診察したり、自分でも様々な経験を重ねてきたことにあります。

社会的に認められる成功者となった人でも、何が不満なのか、いつもイライラとして不服そうな顔をしている人がいます。

あまり裕福ではなくても、ニコニコとして、楽しそうに毎日を過ごしている人もいます。

そんなご高齢の方々をたくさん診ているうちに、「人生には勝ちも負けもないんだな」と考えるようになったのです。

「人生を勝ち負けで判断しても、あまり意味はないな」

そう思うようになると、肩の荷が下りたみたいに、気持ちがスッと軽くなりました。

その影響なのか、最近では、人から表情が明るくなったと言われます。もしかすると、笑顔でいることが増えているのかもしれません。

人は明るい気持ちでいると、笑顔になります。笑顔でいれば、自然と明るい気持ちになれます。

それは、私が身をもって体験してきたことでもあるのです。

笑顔の看護師
写真=iStock.com/Milatas
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交通事故の示談のように、「7対3で勝てばいい」と思えるか

本書の第2章のストレスの項目で紹介した「逃げる」という選択を避ける傾向があることなど、まさに「勝ち負け」で物ごとを考えていることの象徴といえます。

「逃げたら負け」と思っているから、いくらストレスを溜め込んでも、何とかして我慢しようと無理をしてしまうのです。

人の人生は、「逃げたら負け」ではありません。

「逃げるが勝ち」でもありません。

大事なことは、勝ち負けではなく、結果的に「生き残る」ということです。

自分が生き残るためには、どうしたらいいか?

勝ち負けで考えていると、この最も大事な判断を見誤ることになります。

どうしても勝ち負けのクセが抜けないならば、「圧勝」を考えるのではなく、交通事故の示談のように、「7対3で勝てばいい」という発想を持つだけでもいいと思います。

完全に打ち負かそうとするのではなく、3割くらいは相手の言い分を受け入れるということです。

完全に打ち負かせば、相手は「敵」になりますから、ムダに敵を増やさないための余地を残すということです。

この「勝ち負けで考えない」というのは、精神医学の分野では最近のトレンディな考え方で、最近になって注目され始めた新しい視点です。

現代の日本人にとっては、非常に大切な考え方だと思います。