世界標準時のグリニッジ天文台を擁するイギリスは、19世紀まで都市ごとの時刻がバラバラだった。なぜ時刻を統一することになったのか。イギリスの技術史家、デイヴィッド・ルーニー氏の『世界を変えた12の時計』(河出書房出版)より、一部を紹介しよう――。
ビッグベン
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社会生活を効率化させた電気時計

電気は未来なのだと、私たちはつねに信じてきた。電気自動車、電車、屋根のソーラーパネル、風力原動機(タービン)、ポケットのなかの携帯電話。これらはみな有害物質をあまりださず、よりよく、速く、安全で、より(ネットワークで:訳注)結びついた未来のシンボルとして受け止められている。

電気は光速で伝わり、世界は電線を通じて、あるいは天空を突き抜けて拍動する広大な信号網なのだ。電気は近代性を定義するものとなった。電気こそモダンなのである。

世界各地の数え切れないほどの町や都市に設置されたような電気時計は、ただ私たちがより効率よく動けるように役立つ、ありふれた実用的な技術のごとく見えるかもしれない。職場の壁や、鉄道の駅などの公共の場に設置された時計は、背景に溶け込んでしまい、私たちがそれらを二度見することはまずない。

だが、そのことは公共の時計が19世紀後半に発達し始めて以来、私たちの社会の行動――道徳そのもの――をいかに効率よく変えてきたかを証明するのに役立つばかりだ。これらの時計はありふれているどころか、最も高尚な道徳的目的のために使われてきたのだ。

150年のあいだ、これらは大衆の行動を、権力の座にいる人びとが正しい行動だと考えるものに即して標準化する道具となってきたのだ。そして、それは電気時計設備が時間そのものの標準化を可能にしたからなのである。