ビジネス同様人生の確かな備えを

「成功の秘訣ひけつは、何よりもまず、準備すること」と言ったのは自動車王のヘンリー・フォードだ。ビジネスだけでなく、人生においても希望をかなえるには事前の計画、戦略がやはり重要になる。後悔のないシニアライフを送るにも、確かな備えは欠かせない。

働き盛りの現役世代は、「人生100年時代」と言われても、どこか人ごとに感じるかもしれない。しかし、ここは冷静にデータを見ておく必要がある。厚生労働省の資料によれば、2040年に65歳を迎える人が90歳まで生きる割合は男性で42%、女性で68%に上る(図1参照)。「人生100年時代」は決して大げさな話ではないのである。

資料:各年の生命表をもとに厚生労働省政策統括官付政策立案・評価担当参事官室において作成。
厚生労働省「令和2年版厚生労働白書」より。

では、長くなった人生の後半戦を有意義に過ごすため、何歳くらいから準備を始めるべきか──。ファイナンシャルプランナーなど多くの専門家は、「遅くとも50歳には」と口をそろえる。この頃になれば、その後の家計の状況や公的年金の受給額がおおよそ見えてくる。一方で、保険の見直しなどもまだ十分に可能で、資産の管理や運用の選択肢も確保しやすいというのが主な理由だ。

60代になると定年などもあり、将来に向けての意識は大きく変わる。内閣府の「国民生活に関する世論調査」(令和3年9月調査)では「将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか」という調査も行われており、これによれば「将来に備える」との回答が50代では59.8%なのが、60代になると一気に29.8%と減少している。

生きがいの有無で満足度には大きな差が

思い描いたシニアライフを送るには経済的な備えも大事だが、「生きがい」の果たす役割も大きい。内閣府の「満足度・生活の質に関する調査報告書2021」は、「趣味・生きがいがある人とない人では満足度の水準に大きな乖離かいりが生じており、趣味・生きがいがある人の満足度の方が非常に高い」と指摘している(図2参照)。

内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2021」より。

今の時代、定年後も何らかの形で仕事を続けたり、ボランティア活動に従事したりする人も増えている。その意味では趣味や生きがいについて、「引退前」と「引退後」を明確に分けて考える必要はないだろう。現役のうちから、自分のやりたいこと、好きなことを意識し、実践していくことが、充実した将来につながっていくはずだ。

コロナ禍などを背景に社会の在り方が大きく変化する中、「自身の人生にとって本当に大切なものは何なのか」、改めて見つめ直した人も多いに違いない。そのとき感じた思いを大事にして、将来を考えることは、理想のシニアライフを手に入れる第一歩になるだろう。