他人との「所得差」で悩む必要はない

ただし、最も露骨な他人との比較といえば、所得差でしょう。おカネに色はないので、さすがに愛着は持ちにくい。多いほうがいいに決まっている、というのが社会通念です。まして、仮に自分より優秀とは思えない人が自分の2倍の給料をもらっているとしたら、不公平感に苛まれて穏やかではいられないかもしれません。そのとき、どう心の整理をつければいいか。

これについてラッセルは、〈精神を訓練すること、つまり、無益なことは考えない習慣を身につけることである〉と簡単に片づけています。自分が生活に十分な給料を得ているなら、もうそれでいいではないかというわけです。「ねたみぐせ」を治すことができれば、それだけで幸福になれる。そうすると、むしろ人からうらやましがられる存在になるとしています。

さらに、人と比較しはじめたらキリがないという話を、なかなかユニークな切り口で展開しています。

〈もしも、あなたが栄光を望むなら、あなたはナポレオンをうらやむかもしれない。しかし、ナポレオンはカエサルをねたみ、カエサルはアレクサンダーをねたみ、アレクサンダーはたぶん、実在しなかったヘラクレスをねたんだことだろう〉

シェルブール オクテビル空港
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たしかにこう言われると、妬んだりうらやんだりすること自体が虚しく思えてこないでしょうか。

同じメジャーリーガーでさえ大谷翔平を絶賛している

実際、ナポレオンやカエサルを持ち出すまでもなく、同時代にも比較対象にすらならないほど規格外の能力を発揮する人物が少なからずいます。メジャーリーグで2021年シーズンのMVPまで獲得した大谷翔平選手は、間違いなくその一人でしょう。

あの活躍ぶりを見て、競争心や嫉妬心を持つ人はまずいません。誰も時速160キロの剛速球は投げられないし、50本近いホームランも打てない。もう諸手を挙げて絶賛・賞賛するばかりです。

面白いのは、同じメジャーリーガーでさえ大谷選手に感嘆し、絶賛していること。敵味方の関係なく、「こんな選手と一緒にプレーできて幸せだ」「みんなこの瞬間を見届けろ」「大谷は怪物」「みんなはまだ本当の凄さに気づいていない」等々のコメントが聞かれました。2021年シーズンのオールスター戦でも、選りすぐりの選手たちが大谷選手と一緒の写真を撮ったり、サインを交換したりした姿が印象的でした。