どうせ西側諸国には理解されない…内側にこもっていくロシア

同時にわかることは、ロシア側の情報戦というのが西側諸国をまったく意識してないということです。要するに、ロシア語を母語とする人々、あるいはロシア語を母語と同じように使える旧ソ連圏の人たちにだけ理解してもらえればいい。どうせ西側諸国はわれわれのことは分からないんだと、諦めてしまっているように思います。

ロシアが内側にこもっていくことを予想したかのようなテレビドラマがあります。『月の裏側』というSFドラマのシーズン2です。

まず、『月の裏側』のシーズン1の説明をしましょう。こちらは2011年に放映されて、大ヒットしました。連続殺人犯を追っていたモスクワの警察官が交通事故に遭い、1979年へタイムスリップしてしまう。そこで知り合ったKGBの中堅将校に、ソ連がなくなることを教えます。さらに、証券の民有化を利用して金持ちになる方法をアドバイスし、その将校は新興財閥「オリガルヒ」の一員になっていきます。警察官のほうは、いろいろな偶然が重なって現代に戻る、というストーリーです。

1971年のモスクワ
写真=iStock.com/atlantic-kid
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西側の商品はすべて禁止、ブラウン管のモニター、オンボロの車…

視聴率が30%を超える人気になったので、翌年にシーズン2が作られました。どんな内容だったかというと、主人公の警察官が戻って来た2011年のモスクワでは、ソ連が崩壊していません。コカ・コーラなど西側の商品は、すべて禁止されています。コンピューターはMAKというソ連製で、ブラウン管のモニター。携帯電話はポケット電話と呼ばれていて、木の箱にダイヤルがついた代物。車もおんぼろのソ連製で、タクシーは自動販売機から共有キーをレンタルして自分で運転します。

西側と完全にかけ離れた独自の文化と生活体系で、70年代と消費水準が変わらないソ連が描かれました。しかし軍事に関わる技術だけは非常に高度化していて、火星へ人を送ることにも成功しています。

シーズン1に出てきたKGBの中堅将校が、いまや書記長。独裁国家の主として君臨していて、役所の執務室には肖像がかけられています。空には気球が浮かんでいて、住民の動向を常に監視しています。そんなディストピアドラマでした。余談ですがロケはベラルーシで行われ、実際に町を走っている車などが使われました。

「これは現在のロシアだ、わざわざそんなの見たくない」ロシア人の思い

今回の戦争が終わったあとのロシアが、この『月の裏側』シーズン2のように独自の閉鎖的な状況になっていくことを、私は危惧します。ソ連が崩壊してから直近の30年だけが例外的な時期で、ロシアは内にこもる謎の国という存在に戻っていくのではないかと。

ちなみに『月の裏側』シーズン2の視聴率は、わずか数%にとどまりました。「これは現在のロシアの姿じゃないか。そんなもの、わざわざ見たくない」と国民から敬遠されてしまったのです。

すでに、Facebookが使えなくなったので「フコンタクテ」というSNSが使われています。Googleの代わりは「ヤンデックス」です。この戦争でロシア人は嫌われてしまったから、夏の間は南フランスの保養地コートダジュールに行くのをやめて、ソチかヤルタに行くようになるでしょうし、外国製品が入ってこなくなるから自国のものを使うようになる。

ロシアの人口は約1億4500万人。ロシア語圏ということになれば約2億5000万人います。ロシア国民の気持ちはさておき、内側に閉じていくことは十分に可能なのです。