政府は、SPEEDIを使わなかった理由を、「原子炉施設からの放射性物質の放出の状況」が不明でその正確な解析データが得られないためとしている。「放出の状況」とは、放射性核種の時間ごとの放出量だ。

しかし、そもそも「データの精度に疑いがあり、その公表は混乱を招く」という弁明には真実性が乏しい。なぜなら、国民には開示しなかったその情報を、賠償問題などでより大きな国益を損なうかもしれない外国(米国)に対して何の躊躇もなく流しているからである。国際的・対外的な混乱と国際問題の発生を考慮しなかったわけではあるまい。

こうした嘘が平然とまかり通るような事故調査委員会の生ぬるい検証では、国民の知る権利は全うされない。その不当な行為がなされた理由を国民が合理的に推測するため、以下に事実と必然と常識を列挙する。

・関係官僚は、事故当日に情報を入手し、以降も膨大なデータで汚染状況を監視し続けた。

・関係官僚は、ある時期までその拡散予測データの存在も内容も、官邸には報告しなかった。

・関係官僚は、官邸や国民よりも先に米国に報告した。日米安保の相手である米国には正確な情報提供が必要だ。従って、関係官僚はそのデータが実態を表していることを理解していた。

・核爆弾投下以来、米国は依然として人類の被曝データを集め続けている。

・関係官僚は、SPEEDIを運用する技術センターに事故直後から膨大な量のデータ計測を指示し、汚染状況の観測を秘密裡に続けた。従って、事態が尋常ならざる事態であることを常識的に認識し、多くの被爆者が出ることも当然、予測できた。

・彼らは放射能汚染地図を把握し、危険な場所がどこかも承知していた。従って、そのデータに基づいて住民たちを安全な場所に誘導することもできた。しかし、それをしなかった。

・危険を避ける形で住民を誘導すれば当然、誘導の根拠となるSPEEDIとそれが示す深刻な拡散分布図の公表を求められる。

・政府のデータが公表されれば、汚染された土地の政府による買収や政府と東電が被る賠償がいずれ問題になったとき、それらに重大な影響を与える“証拠”となる。

・一般的に、官僚は「自分の裁量と責任でそれを開示すれば、出世や天下りで不利が生じる」と考える。

・采配の責任は政治家が負う。そのため、政権与党の政治家たちが失態をさらせば政治家は臆病になり、情報を握る立場の官僚に政治を操られやすくなる。