原子力安全技術センターが「深刻な拡散」知っていた証拠

SPEEDIの開発・運営の主体は文部科学省の外郭団体である財団法人原子力安全技術センターである。幹部役員は、同財団に非常勤で天下った元科技庁事務次官の石田寛人会長、常勤の数土幸夫理事長、石田正美理事(文科省出身)、長谷川英一理事(経産省出身)、林光夫監事(科学技術庁出身)らだ。

原子力災害対策特別措置法を見ると、SPEEDIの計測結果は文科省、経産省原子力安全・保安院、内閣府原子力安全委員会、関係自治体、オフサイトセンターへとネットで迅速に伝達され、防災対策を講じるための重要な情報として活用すべきことが定められている。

一方、IAEAの政府報告書には、SPEEDIを運用する原子力安全技術センターに文科省から計測指示がなされたのは、震災が勃発した3月11日午後4時40分と記載されている。同センターの数土理事長もこれを認めている。しかも、その計測指示は「1号機が水素爆発した場合の放射性物質拡散予測データ」だった。以降、同センターがそれぞれの機関から予測データ計測の指示を受けた回数は、3月16日までで実に計84回にも達している。

つまり、彼らは皆、深刻な拡散分布状況を知っていたのである。事故当日には1号機の水素爆発を予測し、その後も住民の深刻な被曝を承知していたということだ。斑目春樹原子力安全委員会委員長と寺坂信昭原子力安全・保安院長は、事故勃発直後から官邸で首相や官房長官と会議を重ねていた。そうなると、彼らが報告義務を怠ったせいで、住民への適切な避難措置が発令されなかったことになる。子どもを抱えた母親たちが危険エリアに逃げ込んで明らかに高線量を被曝している様子を、彼らが黙視し、放置し続けたということになるのだ。

11年1月16日に国会で開かれた事故調査委員会で、SPEEDI予測データを公表しなかった理由を問われた文科省科学技術・学術政策局の渡辺格次長は、それが「無用の混乱を招きかねないとの判断」によるものだったと答えている。

重大な報告を怠った官僚を弾劾できない政治家たち。それが過失か意識的なサボタージュかは問題ではない。重大な過ちを起こして国民に被害を与えた「結果」をこそ問われねばならない。官僚の責任を問い、罷免できないのは、「任官補職」という身分制度があるからだ。それは他国にもある。日本の場合、かつて官僚は「天皇の下僕」だったが、戦後は「米国の下僕」だ。

渡辺次長は、事故直後のデータを外務省経由で米軍に提供したことも認めている。同次長はその理由について、「緊急事態に対応してもらう機関に情報提供する一環として連絡した」のだと説明した。

「無用」というきわめて恣意的な表現は論外だが、冒頭に述べたように住民の安全を確保するための適切な誘導さえ行われていれば、「混乱を招きかねないデータ公表」をする必要はない。だが、被曝することが分かっているにもかかわらず住民保護がなされなかった事実は、それが単なる過失ではなく意図的な采配だった疑いすら生じてくる。拡散予測データを把握し、危険エリアを知りながら、彼らが平然と住民の被曝を眺め続けたのは紛れもない事実だからである。