パスポートを破り捨てたベラルーシ人

ロシアにいるどれくらいの人がこの戦争に反対しているのか、知るすべはないということになる。しかし自由の国で生活している私たちには想像もできない状況を裏付ける話をしてくれたのは、ウクライナの隣国ベラルーシから19歳でアメリカに移住したというアレクサンダーだ。

NYのタイムズスクエア周辺で行われたロシアによるウクライナ軍事侵攻に抗議する人々
筆者撮影

アメリカメディアは27日、ウクライナの首都キエフのすぐ北に位置するベラルーシ軍が侵攻を開始するだろうと報道した。

「家族は皆ベラルーシにいて危険にさらされている。男性は戦争に行かなければならないだろう」アレクサンダーの表情は硬い。

「ルカシェンコ大統領は最悪だ。プーチンと共に2人の独裁者が世界を脅かしている」

ルカシェンコ大統領は1994年から28年間トップの座に君臨している。2000年には、ベラルーシがロシアの連盟国となったのに伴いその初代最高国家会議議長に就任した。アレクサンダーは、この時点からもうベラルーシは独立国でさえなくなったと語る。

「ベラルーシではインターネットが規制されているから、国民が得る情報は政府がコントロールしているプロパガンダのチャンネルだけだ」

ルカシェンコ大統領がいるから渡米する決心をしたという彼は、破り捨てたベラルーシのパスポートの写真を見せてくれた。パスポートを破り捨てるというのは母国に二度と戻れなくなるということだから、その思いは想像を絶する。

筆者撮影

「経済制裁で苦しむのは一般のロシア人だ」

「この2人の強力な独裁者が手を組むことで、独裁政治が21世紀のヨーロッパに広がることを強く危惧している。ウクライナだけでなく多くの国がベラルーシのようになってしまうかもしれない。それだけでなく核兵器までちらつかせて世界中を脅かしている」

一体何が起きているのか、自分たちが伝えなければならないと彼は言う。「そうすれば多くの人を目覚めさせることができるはずだ」

NYのタイムズスクエア周辺で行われたロシアによるウクライナ軍事侵攻に抗議する人々
筆者撮影

前出のロシア人カティアの夫ユーギニーはニューヨーク育ちのウクライナ人だ。2つの国が戦うことに心を痛めている。

「経済制裁も独裁者にはそれほど影響せず、苦しんでいるのは一般のロシア人だ。彼らが気の毒でたまらない」

ユーギニーは言う。

「でも希望はある。ロシアという国には無限大の可能性がある。多くの資源もあるのにその恩恵を受けているのは一握りの人だけだ。ロシア人に自由というものを見せたい。そして自由に至る道はあるということを知らせたい。それを妨げているのは政権だということに目覚めてほしい」

さらにこう続ける。

「ウクライナという小さな国がロシアという大国ととても勇敢に戦っていることを世界が知るべきだ」