福島第一原子力発電所の事故で、東京電力の責任が問われています。損害賠償をするために人件費を削減することが要請され、経営陣や社員に対する風当たりはこれまでにないほど強いものとなりました。実際には東京電力の人件費はどれほど高いのでしょうか?

公認会計士 秦 美佐子 はた・みさこ●早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。他に経営に活かせる会計をテーマにした『会計士マリの会社救出(秘)大作戦!』(すばる舎)などの著書がある。

2011年3月11日。日本で観測史上最大規模の地震が起こりました。同年12月時点における死者・行方不明者は約2万人、全壊・半壊の建築物は35万戸以上、そしてピーク時の避難者数は40万人以上と報告されています。政府は被害額を16兆円から25兆円と試算しており、震災による倒産も相次いでいます。

次々と大惨事に見舞われる中で、被害が最も広範に及んだのが原子力事故によるものではないでしょうか。地震と津波で打撃を受けた東京電力福島第一原子力発電所が大量の放射性物質を放出し、周辺一帯の住民が長期避難を強いられるだけでなく、また電力不足により800万戸以上の世帯が停電を余儀なくされました。

こうした経緯から、原子力発電所をつくった東京電力の責任が問われています。損害賠償をするために人件費を削減することも求められていますが、実際に東電の人件費はどのくらい高いのでしょうか?

社員レベルでも経営者レベルでも、東京電力の人件費は、実は業界一高いわけではありません。各電力会社の有価証券報告書を見ると、こうしたことがすぐにわかります。

この連載では有価証券報告書を用いて、東京電力という会社の実像に迫っていきます。

有価証券報告書とは事業年度ごとに作成される会社の決算内容及び事業報告等に関する開示資料のことです。上場会社であれば必ず作成する必要があり、誰でもそれをインターネットで閲覧することができます。

私は会計士として数多くの上場企業の監査に携わり、有価証券報告書のチェックをこなしてきました。有価証券報告書には会社の実態に関する詳細な情報が事細かに記載されています。その読み方を皆さまにお伝えするために、このほど『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』という本を出版しました。本書の中では、競合他社の戦略分析や株式投資といった様々な目的に合わせた有価証券報告書の読み方を紹介しており、若手会計士の佑真が近所の女子大生のさくらの疑問を解決するという形でストーリー展開しています。この連載でも2人に登場してもらい、本書と同じように対話形式で進めていきます。それでは、今回の主役となる東京電力について見ていきましょう。