日本人は「現実的な対策」をすぐ打たない体質

心理学の立場からみると人間というのは起こってほしくないことについて、それが起こった際の対策を考えるより、起こらない方向のことを考えようとしがちなものだ。

私は、その傾向が日本人にとくに強いと考えている。

たとえば、がんになるのを恐れる人は、毎年のようにがん検診を受ける。本来はがんにならないためではなく、早期発見・治療のためのはずなのに、早期発見がされたときにどこの医者に行こうと決めている人や、それを調べている人はほとんどいない。2人に1人がかかる病気だというのにである。

私の専門とする老年精神医学でも、認知症になるのを恐れて脳トレのようなものをやる人はたくさんいるが、実際に認知症になった際に、どこの老人ホームに入るかを決めている人もまずいないし、それどころか介護保険の使い方も知らない人がほとんどというのが実情である。

ジャンルはまったく異なるが、原発事故にしても起こらないことが前提だったから、起こった時のマニュアルがほとんどなかったという。

オミクロンと文字の書かれた不織布マスクと注射器を持つ手
写真=iStock.com/Helin Loik-Tomson
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オミクロン株に対する水際対策が幻想だとまでは言わないが、実現が非常に難しいことは経験上わかっていることだ。それと比べて、起こった際の受け入れ態勢を早急に進めることはできる。

前述した感染症法の2類を5類にすることもそのひとつだろう。また、野戦病院のようなものを作るより、既存の病院を有効に利用したほうがはるかに現実的だ。実際、既存の病院で酸素吸入器がベッド脇についていないところはほとんどないのだし、看護体制が見直されて、夜間の対応もかなりよくなっている。