2012年1月9日(月)

「在宅勤務」導入率42%の米国にみる3つの効用

PRESIDENT 2012年1月16日号

著者
パク・ジョアン・スックチャ 
アパショナータ代表

日本生まれ、韓国籍。ペンシルベニア大学経済学部卒。シカゴ大学でMBA取得。アメリカの電子部品会社に勤務の後、韓国・延世大学校へ語学留学。アメリカ系運輸企業で太平洋地区での研修の企画・実施を手がける。現在、ワークライフバランスとダイバーシティ(多様な人材活用)を専門とするコンサルタント。著書に『アジアで稼ぐ「アジア人材」になれ!』など。

アパショナータ代表 パク・ジョアン・スックチャ 構成=大宮冬洋
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なぜ男性プロ社員の利用者が一番多いのか

「在宅勤務」という言葉にどんなイメージを抱くだろうか。「育児や介護のための福利厚生」「毎日自宅で働く」「業務に支障が出る」「職場のコミュニケーションが損なわれる」だとしたら、すべて認識不足による誤解だ。

在宅勤務は「テレワーク」と呼ばれる新しい労働スタイルの一つである。テレワークとは、ITを活用して場所と時間を自由に使った柔軟な働き方で、自宅に限らず会社以外の場所で仕事をすること全般を指す。ただし、日本でも海外でも在宅での勤務が主流である。在宅勤務制度を導入し、適した社員が適したタスクを自宅で行えば、集中できる時間がオフィスにいるときよりも増える。

アメリカでは企業のテレワーク導入率は42%に達する(2008年調査)。利用者の6割が男性であり、しかも裁量のきく立場にあるマネジメント・プロフェッショナル職の社員が多い。ハードワーカーである彼らは時短勤務を嫌がり、あくまでフルタイム勤務を希望する。一方で、より成果を挙げるために柔軟な働き方を求める。その一つが在宅勤務なのだ。

在宅勤務は福利厚生ではない。企業の発展・維持にさまざまなメリットをもたらす戦略的な人事制度である。

企業の競争が激化する昨今、個々の社員の能力を最大限に引き出すことが企業の重要な課題である。そこで、社員が最も効率的・創造的に働ける環境を整備する必要が出てくる。「会社でしか仕事ができない」という限られた選択肢では不十分である。

また、労働人口が減少する今後の日本社会において、多様なライフスタイルを要求する有能な人材を確保するためには、「休業支援」ではなく「就労支援」を行うべきだ。在宅勤務制度はその強力な一手となりうる。

日本における在宅勤務の企業導入率はまだまだ低い。しかし、東日本大震災後、BCP(事業継続計画)および節電対策の一環として、在宅勤務制度が急速に注目を浴びつつある。KDDI、NTTデータ、日本IBMなどの先行事例に倣い、導入を検討している企業は少なくない。在宅勤務はリスク・マネジメントの観点からも企業に利益をもたらすのだ。世界的にも優れたブロードバンド環境を持つ日本で活用しない手はない。

現状では、IT関連企業を除くと、育児や介護を目的に在宅勤務制度を利用している女性社員が多い。しかし、本来の在宅勤務は、長時間の通勤に煩わされることなく、一人きりで集中できる環境で、能力を思う存分に発揮するための人事制度なのだ。

自宅に小さな子どもがいる場合は、仕事の邪魔にならないように保育園やベビーシッターなど保育環境の確保が前提である。子どもの面倒を見ながら働くことなどありえない。「就労支援」とはいってもそこはわきまえたい。

「毎日自宅で働く」というのも大きな誤解だ。それが可能なのはコールセンターや電話営業ぐらいであり、実際に導入している企業の在宅勤務の頻度は、一人あたり週に1、2回。残りの日は通常のオフィス勤務となる。

この程度であれば、週に1、2回の地方出張と変わらず、職場にも過度の負担はかからない。一方で、毎日が在宅勤務になると同僚と顔を合わせたコミュニケーションが皆無になるため、むしろ苦痛となるだろう。希望する社員もほとんどいない。また、月に1、2回程度では生産性の向上を実感することはできない。やはり週に1、2回の利用が理想だ。

在宅勤務は、上手に利用すれば本人にも大きなメリットがある。在宅勤務を希望する理由を匿名アンケートで集めると、「通勤時間の長さ」を挙げる人が多い。いうまでもなく、満員電車に揺られる時間は苦痛と無駄でしかないからだ。

生産性の高まりも実感できるはずだ。周囲の雑音や電話などに煩わされることなく、8時間みっちり集中できるため、在宅勤務の日には残業なしで仕事が終わるケースがほとんどである。

通勤が不要なのと、仕事の効率アップから、結果として家事や習い事などのアフターファイブが充実することになり、ワークライフバランスも実現しやすくなる。当然ながら、利用者本人の満足度は大きい。

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