資生堂 研究開発 藤山泰三●1974年生まれ。東京工業大学卒、同大学院修士課程修了後、99年資生堂入社。職場結婚の妻との間に子供あり。朝、子供を保育園に送るのが日課だ。

2009年、まさに大変革をもたらしたのが資生堂の男性用ヘアスタイリング剤「フォグバー」だ。より「さりげない」ヘアスタイルを志向する若い男性向けのこの商品、8月に発売されるやトップシェアを獲得。年間販売計画本数240万本をわずか1カ月で達成し、現在も快進撃が続いている。

藤山泰三さんは、研究所のチームリーダーとして開発に従事した。クリエーターやマーケティング担当者と連携しつつ「貼って剥がせる」付箋紙からヒントを得た、「べたつかない粘着成分」の開発に成功した。

今、化粧品の市場は非常にうつろいやすく、早いサイクルで流行が移り変わる。新商品の企画立ち上げから発売までの期間は大体1年半。スピード重視のうえ、複数の仕事を並行してこなすことが要求される。

そんな状況下、一つの仕事を100%終わらせてから次へ進もうとすると、結論が出ないことがよくあると藤山さんは語る。「A、B、Cという3種類の仕事があり、締め切りが大体同じ頃だったとします。Aを少し進めて行き詰まったらBやCに移り、またAに戻る。あえて並列に仕事を進めていくんです」

ほかの作業をすることで、そこから解決のヒントを得たり、思いもよらなかった方向性が見えたりすると藤山さんは語る。

マーケティングから問い合わせがきたらその場で考える。「そうだ、このやり方はこっちにも流用できる」と複数の問題が同時解決できることも多い。

横並びの仕事を一つ一つ片付けるのではなく、それぞれ小さく刻み、平行移動するように進めていくことで、多面的な解決策が得られ、仕事全体のスピードアップにつながるのだ。藤山さんは、研究所にいるとき、「実験しているとき以外は暇だから、いつでも相談に来て」と宣言している。若手から相談を受けたら、パソコンを打つ手を止めても、必ずその場で具体的な解決策を示す。

思いついたことは、頭の中である程度、取捨選択して、重要だと思うものだけパソコンのパワーポイントに書き込んでいく。

「入社して最初の上司がそうでした。いつ話しかけてもイヤな顔をせず、具体的に解決への道筋を示したうえで、今やるべきことは何かを教えてくれた。必要ならすぐ違う部門に聞きにいってくれたこともあります」

上司の反応や態度にムラがあれば、悪い情報ほど上にあがってこなくなる。結果、問題解決にいたるスピードが遅れ、ロスを生む可能性も増えてくるはず。「『トラブル好きだね』と言われる」と笑う藤山さん。普段はノーネクタイだが、外出する日はネクタイを締めて出勤する。すると、周囲は「今日は午後から外出だな」と認識し、出社後すぐ相談が集中するという。

※すべて雑誌掲載当時

(澁谷高晴=撮影)