NTTドコモ 新規事業開発 江藤俊弘●1967年、福岡県生まれ。早稲田大学卒業後、日本電信電話入社。NTTリースを経て2002年よりNTTドコモ勤務。08年より金融・コマース戦略担当部長。

「アイデアがない、と思ったことはない」と言い切る江藤俊弘さん(42歳)。属するフロンティアサービス部は、他社と提携した新規事業の立ち上げを担う。2009年7月、同社はみずほ銀行とともに相手の電話番号を指定するだけで送金できるサービスを開始。ほかならぬ江藤さんの発案だ。05年には三井住友フィナンシャルグループ3社とおサイフケータイを使ったクレジット決済事業を立ち上げた。イオングループとマーケティング会社を設立し、携帯電話に商品情報など“電子チラシ”を送信するサービスも準備中だ。

江藤さんは、目標から逆算した行動管理を行っている。

実例を挙げよう。みずほ銀行の送金サービスのアイデアが閃いたのは08年夏、通勤途中の電車の中だった。

「小さな成果を四半期に1回、大きな成果を年1回出すと決めて、年間計画表をつくります。すると、1カ月・1週間・1日の予定はおのずと決まってきます」

「知人から借りたお金を返し忘れていたことを思い出したんです。そこでふと、メールやスケジュールのチェックの延長線上で、『ケータイから送れればラクだよな』と思いついた」

その日に会った旧知のみずほ銀行スタッフに相談すると、「そりゃそうですね」。互いに話すうちに興に乗り、アイデアが補強されていく。翌日から金融庁へのアポ入れを開始。数々の難関を越えて遂に実現させた。

閃いた。相談した。重要なのは、いずれも偶然に見えて、実は意識的に確保した時間帯での出来事であることだ。

「大きい思いつきが生まれるのは、精神的に一人になる時間です。家庭や職場でそれを確保するのは難しいので、一人で昼食を摂ったり、夜にシガーバーで過ごしたりします。電車の中で中・長期的な構想に思いを馳せ、たまに乗り越すこともある」

目覚ましも、スケジュール管理もすべてケータイを活用。手帳や筆記具は持ち歩かない主義。

アイデアは抱え込まず、電話やメールで昼夜を問わず部下らに振って議論させる。1日最低1回は外部の人と会うと決めている。用なしでも、とにかく飲みやお茶に誘う。

「アイデアが現実に転じるのは、他人の知見と自分の経験が組み合った瞬間。人との縁がアイデアを生み、アイデアがまた人との縁を生むことを実感します」

アイデアを次々と思いつくだけではビジネスは動かない。社内外の人々を巻き込んで積み重ねていった成果が仕事の幅を広げ、より大きな成果を生む下地となる。

「この“プラスのサイクル”をどう繋いでいくかが企業や個人の持続的成長の鍵」と語る江藤さん。3~4年後に金融事業本部を立ち上げ、通信の次の収益の柱にする。そのために金融事業を年に1~2つ立ち上げる。そのために今日は……と行動管理に余念がない。

※すべて雑誌掲載当時

(永井 浩=撮影)