<strong>大阪大学大学院医学系研究科皮膚・毛髪再生医学寄附講座教授 板見 智</strong>●1952年生まれ。大阪大学医学部卒業。大分医科大学皮膚科助教授などをへて2006年から現職。
大阪大学大学院医学系研究科皮膚・毛髪再生医学寄附講座教授 板見 智●1952年生まれ。大阪大学医学部卒業。大分医科大学皮膚科助教授などをへて2006年から現職。

日本では薄毛を「自認」している成人男性は3人に1人、1260万人と言われています。薄毛を「自認」する人を対象にした調査では、薄毛が進んでいくことで生じた精神的変化には「外見的に魅力的ではない」と感じる人が52.4%、「髪が完全に生えている人と比べて自信がなくなった」人が40.4%にもなります。

薄毛は仕事にも大きな影響を与え、「自分は仕事上で他の人たちと同等の機会を与えられていないと思った」と悩む人が15.5%います。髪が薄くなったからといって、その人の人格が変わるわけではないのに、他人の目を気にする人が少なくないのです。

その中でも悩んでいる人のほとんどが男性型脱毛症(AGA)です。前頭部や頭頂部の毛が一定のパターンで薄くなるのが特徴で、早い人では思春期を過ぎた20歳頃から発症し、40代の男性では発症率30%と報告されています。

研究が進むにつれAGAは、人間の体内にあるテストステロンという男性ホルモンが大きな原因の一つであることがわかってきました。このホルモンは、毛乳頭細胞の中でII型の5α-還元酵素によってジヒドロテストステロン(DHTという悪玉の男性ホルモンに変換されて、毛母細胞の増殖・分化などを低下させ、毛髪が太く、長くなる前に細く短い産毛のままで抜けてしまうのです。

そのためこの還元酵素の働きを阻害し、DHTの産生を抑え、薄毛の進行を抑えることが、現在では有効な脱毛・薄毛治療の方法になります。その治療に用いるDHT抑制剤が、爆笑問題のテレビCMで知られるフィナステリド(製品名プロペシア)です。その効果は、メーカーの万有製薬が行った国内の臨床試験では、投与1年後に58%の被験者で毛髪が増え、3年後では抜け毛の進行抑制と改善効果を合わせ98%になります。