IFRS導入で駆逐される「後入先出」

石油業界各社の業績は資源価格と会計処理で大きく変動していた
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石油業界各社の業績は資源価格と会計処理で大きく変動していた

売り上げが増えれば利益も増えるのが普通の会社だろう。しかし、売り上げが減っているのに増益、という会社もある。

たとえば、新日本石油(新日石)。同社の2009年度決算見通しでは、売上高前年度比約2割減の5兆8600億円に対し、経常利益は1210億円で、前年度比3964億円の増益の予想。「減収増益」という格好だ。その理由は、在庫の評価方法にある。

石油製品などの販売で得られる利益は、販売高と売上原価の差額である。在庫は期首の段階で保有しているものもあれば、期中に仕入れたものもあるが、原油価格は変動するため、仕入れる時期によって、仕入れ価格が異なる。そこで新日石では、「総平均法」という評価方法で在庫価格を算出している。総平均法とは、期首の在庫と当期の仕入高の平均価格を原価とみなす、という方法である。

期中に原油価格が上昇しても、期首の段階で保有していた割安な在庫があれば、在庫の平均価格は押し下げられる。結果、売上原価は低く抑えられ、その分利ざやは大きくなる。09年は原油価格が上昇したため、売り上げは減っても利益が増加した、というわけである。さらに期末に残った在庫については、「低価法」で評価する。低価法とは、在庫について、時価か仕入れ原価のいずれか低いほうで評価する、というもの。100円で仕入れた在庫の時価が90円になれば評価損が発生するが、時価が110円になったとしても、低いほう(この場合は仕入れ原価の100円)で評価するため、評価益は生じないことになる。

新日石の場合、08年度実績では期末に原油価格が下がって評価損が生じたため、減益となったが、09年度は期末時点の原油価格が上昇し、評価損という重しがとれた状態となる。

つまり、原油高に助けられて利ざやが膨らんだことに加え、期末在庫の評価損がなくなったため、売り上げが減っても増益となった、というわけである。