腰の重い経営層を動かしたのは森発言だった

品川たちは「気持ちからデータ重視」に戦略を変えた。各部署ごとにどんな属性の人が何%登用されているか、同じ評価なのに昇進に差がないか徹底してデータで可視化した。結果、昇進には男女差があることがわかり、そのデータを経営層の会議で示した。

会議室が並ぶメルカリ本社
撮影=西田香織
会議室が並ぶメルカリ本社

「それでもまだ経営層の中には、『それは実力の結果』だと言う人もいました。でもそうではないことを何度もデータをもとに働きかけました」(品川)

経営層全員がジェンダーギャップの存在とその解消の必要性を認識するようになったのは、品川たちの粘り強い働きかけももちろんあったが、いくつか“追い風”もあった。

今年2月に起きた森発言騒動。森喜朗元五輪組織委員会会長の女性蔑視発言に対しては、女性たちだけからでなく、五輪スポンサー企業からもNOが突きつけられ、女性差別を許容し放置する組織や企業は社会的に許されないという空気が一気に広まった。2年ほど前から、自らジェンダーギャップについて問題意識を持って本などを読んで学んできていた山田も、森発言にいち早く反応し、「これは私たち日本が育んできた文化。猛省し、どう打破できるのか真剣に考えアクションしていきたい」とTwitterに投稿した。

「進太郎さんのSNSでの発信は社内のスラックでも話題になっていました。社会の変化やトップの問題意識が、徐々に経営陣の変化にもつながったと思います。今では少なくともこうした構造的な差別や格差を是正することを『逆差別』だと言う経営陣はいなくなりました」(品川)

経営トップ自らD&Iを推進する山田進太郎社長
撮影=西田香織
経営トップ自らD&Iを推進する山田進太郎社長

D&Iが進めば「何も話せない」職場ではなくなる

今年1月には山田直轄でD&Iを進める社内委員会「D&I Council」を設置、2月からは部署ごとに半年もしくは四半期に1度受けるトレーニングも開始した。1時間のトレーニングの後には実際部署内にどんな課題があるかを議論する。自分たちで部署ごとに課題を見つけ、解決のためのアクションを決めるだけでなく、効果測定までする。

部署ごとに決めるリーダーは当初100%女性社員だったという。それだけ課題感を切実に感じ、改善したいという思いが強かったのだろう。まだ日本人男性がリーダーに立候補してくれるまでにはなっていないが、来年ぐらいには男性リーダーが自分の言葉でD&Iの必要性を語ってくれるようになればいいという。

品川はD&Iの知識やそれに配慮した言動は今の時代に必要なビジネススキル、マネジメントスキルだと指摘する。2年前にマネージャー層に性別や年齢、国籍に対する無意識の偏見を排除するアンコンシャスバイアス研修を始めた当初は、人事のメンバーでさえ、「あれも言ってはダメ、これも言ってはダメでは何も話せなくなってしまう」という反応だった。だが、

「いろいろな人に配慮しながら結果を出すことは、当たり前のことだとわかって欲しい。男性ばかり、男性が意思決定者に多いボーイズクラブは(そのメンバーにしかわからない)暗黙知が多く、情報へのアプローチに格差が生じます。D&Iが進んだ組織ほど、結果的には風通しのいいサステナブルな組織になるんです」